二十二片目:I’m heading out now.


ヴォルとすずろ兄ちゃんと一緒に作戦会議用の車両に行くと、

リヴとイリーナを除く皆が勢揃いしていて…

 

…それから、新しい顔ぶれもあった。

 

 

思わず目を見張ってしまう。

 

 

長いアホ毛がある薄い金髪の男性は語にめちゃくちゃ似てたし、

桜にそっくりな女性はデパートで見た死体と瓜二つだったから。

 

 

「もー、遅ーい!時間厳守だよ、遅刻厳禁だよ!」

 

 

ルピナス先輩がてこてことこっちに向かいながらそう言って、

俺にデコピン(痛くない)をした後、ヴォルの足を踏む(多分痛くない)。

 

「いちゃいちゃするのはそりゃ構わないけど、ちゃーんと時と場合を考えてね?」

 

腰に手を当てて、諭す様にそう言った彼女に、俺とヴォルは頭を下げた。

 

「すみませんでしたルピナス先輩」

 

「すまない」

 

 

すると

 

 

「むっ…先輩って中々いい響きだなぁ…ふふ……じゃなかった。

 おっほん!分かったならよろしい!」

 

と笑顔で許してくれた後に、

ふわっとツインテールをなびかせつつ、くるんと後ろを向いて言った。

 

 

「それじゃあ早速本題…と言いたい所だけど、まずは皆に紹介するね」

 

 

 

 

 

 

 

ルピナス先輩の紹介を要約するとこんな感じ。

 

男性と女性は語の両親で、名前はそれぞれ紡さんとスヴィトラーナさん。

 

桜が探索中に二人を見つけて、合流したルピナス先輩が事情を説明した所、

紡さんがパーツらしき物(彼曰く、デカくてピカピカの四角いやつ)を見た事がある

って判明したから、此処に連れて来た。

 

…という事らしい。

 

 

 

デパートで彼女に既視感を覚えたのは至極当然だった。

 

あの時は、まさかこんな所に居る筈が無いと思って深く考えなかったんですがね。

語の親だなんて想像すらしてなかった。

 

スヴィトラーナさんは桜の育て親で、何度か話をした事があったんだ

 

 

それと、彼女がデパートで死亡したのが確定した事で、

娘(なのか息子なのか微妙な所だけどあいつが今は女だって言ってたからそういう事にする)

である語が、デパートに足を踏み入れるのを躊躇ったり、探索中に黙り込んだり、

熱を出した理由が分かった。

 

自分の親を亡くした場所になんて、入りたくなかったに決まってる。

 

もし死体に鉢合わせたりでもしたら。

俺があいつの立場なら、考えたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではでは本題………えー単刀直入に言うと、遠征を行いまっす!」

 

ルピナス先輩は高らかに宣言した後、概要を説明し始めた。

 

「メンバーは、私、つむぎん、すずろん、すおすお、フィアちん…それからサクラ君」

 

 

…………………………………。

 

 

………………えっ、俺?!

 

 

「今回のパーツは結構サイズがあってね。なんせエンジンだから。

 そんな訳で、体力と筋力があるメンバーを選出させて貰いました」

 

ルピナス先輩は続ける。

 

「私一人で行って持って来るのも可能といえばそうなんだけど、

 私の元々の腕力は人並みなものでして。

 神様としての力を消費して持って来るとなると…あんまり好ましく無いというか。

 そんな訳で、ご協力お願いします」

 

ぺこりと頭を下げた後、彼女は紡さんに訊ねる。

 

「えーっと、パーツまでは此処からどれくらいだったっけ?」

 

「この電車の入り口から考えたら、直線距離で43.741km進めば座標的に着く筈だよ」

 

「てことは…マラソンよりちょっと多めの距離って所かな。

 帰りは重たいパーツを運びながらになるから日数を正直計算出来ないんだけど、

 遠征メンバーは大丈夫?」

 

 

 

…………………………………………凄い。

 

勿論歩かなきゃいけない距離もだけど、紡さんが凄いと思った。

 

パーツを見かけた場所から此処までの距離を計算したって事だろ?この真っ暗な終着点で。

簡単に出来ないと思う普通。

 

てか距離離れ過ぎだよぶっ飛び過ぎだろエンジン馬鹿野郎。

 

 

 

っと、それはさておき俺は頷く。

 

ヴォルの薬のおかげで体に不自由は感じないし、筋肉だって程よく付いてる…

足手纏いにはならない筈だ。

 

他の遠征メンバーも文句は無さそ「桜ちゃーーーん離れ離れなんてやだよーーーーー」

 

 

いや、約1名駄々こねてるわ。

 

 

「すずろさん。子供じゃないんですから」

 

「そーだよすずろん。パッと行ってパッと戻って来ようよ〜」

 

「帰って来るまでの日数分かんないって言ってたじゃん"!!

 絶対パッと終わる事じゃないよね"?!」

 

「ルピナスちゃん、すずろさんの事よろしくお願い」

 

「お任せ下さい…しっかり面倒見ますので…!」

 

「ぶぇぁぁぁぁぁあん"!!やだやだあ"ー!!

 僕達三人で仲良しトリオじゃんかああああああああああああああ"!!!」

 

 

なんだこのやり取り!!

 

後半部分完全に保育園に預けられる子供と保護者と保母さんじゃん!!

 

 

皆慣れてるのか、楽しそうに笑ってるけど。

来たばっかの紡さんや、スヴィトラーナさんまで(きっと桜が楽しそうだから嬉しいんだろう)

笑ってる。

 

 

 

そんな中、一人だけ無言だったヴォルが、

俺のパーカーの裾を親指と人さし指でそっと摘んできた。

 

「サクラ、本当に行くのか」

 

う、そんな寂しそうな顔しないでよ…行きたくなくなるじゃん………………

 

…………………でも。

 

 

「今まで寝てて、何も役に立ててなかったしな。指名されたら頑張るっきゃねえよ」

  

 

少しの間の後、ヴォルはぼそりと告げた。

 

 

「分かった……待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出発はいつですか、先輩」

 

俺の問いに、ルピナス先輩が答える。

 

「そうだね、すぐにでも」

 

 

言うや否や、パンと手を叩いて彼女は場を引き締めた。

 

 

「遠征メンバーは直ちに出発準備に取り掛かって!

 野宿になる事を念頭に置いて、忘れ物が無いように!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早速解散になったので、俺はヴォルと部屋に戻った。

 

 

「要る物といったら、やはり寝袋と食料だな」

 

 

そう言いながらヴォルが棚から取り出してくれたのは、俺の馴染みの肩掛けカバン。

 

中を開けたら、昔使っていたコンパクトな寝袋だけが入っていた。

 

なんでも、腐ったりしたらあれだから食糧は以前取り出しておいたらしい。

 

 

とても助かったのでお礼を言った。カビてたら切なくなるからね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルが別の棚から取り出した保存食を受け取ってカバンに詰める作業を終えた時、

彼は俺の手に自分の手を重ねて、何かを置いた。

 

 

あ、御守りだ。

 

 

「これってヴォルの?」

 

訊ねると、こくりと頷かれた。

 

「じゃあちゃんと返さないとな」

 

「…サクラ」

 

「帰ったらピーマンフルコース食わせてくれよ」

 

「あの、それは死亡フラグというやつだって、前にルピナスが」

 

 

ルピナス先輩流石ぁ!そんな事まで教えてたとはー!

 

 

「大丈夫だよ。何かあっても、ルピナス先輩もフィアさんも母さんもいるし!護ってくれる筈!」

 

「全員女じゃないか」

 

「本当それな」

 

 

情けなくてすみません。

体力しか取り柄なくてすみません。

 

 

「ところで話は変わるが、紡は道案内という意味で抜粋されたのだろうし、当然頷ける…

 しかし何故、すずろなんだろう」

 

ヴォルはそう言って、口元に手を添えて首を傾げた。

 

 

確かに、不思議ではあるかも。

 

 

「あれじゃない?もしもの時に奇策を出す係とか」

 

「アドバイザーという訳か。まあ、あんなのでもやる時はやるからな…」

 

「さりげなくdisらないでやってよ…」

 

 

まだかっこいい所見れてないから、今回の遠征ですずろ兄ちゃんの良い所見れたら良いなー。

 



さて。

 


 

「御守り有難うな。そろそろ行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルと再び会議用車両に行くと、此処に残るメンバーが見送りに来てくれていた。

遠征メンバーも既に勢揃いしてる。

 

 

「お、サクラ君。数日分のヴォルくん成分は充電できてるかな?」

 

俺達にいち早く気付いたルピナス先輩が、茶化す様にそう言った。

 

 

ヴォル成分かあ…それは飯食った後に…………………………………

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

…………………………………ふう、思い出すのは止めとこう!

 

 

 

 

「大丈夫です」

 

 

俺が答えると、おや。

隣でヴォルが満足そうに頷いてる。

 

 

「ヴォルくんも、サクラ君補給完了済みっぽいね!」

 

 

やっぱあれの影響かしらぬおおおお恥ずかしいよいやあああぁぁぁあぁーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたら連絡するね」

 

「うん、分かった。気を付けて」

 

 

桜とやり取りを終えたルピナス先輩の後に続き、遠征メンバーが出て行く。

 

俺も行こうとした、その時。

 

 

 

「サクラ」

 

 

 

ヴォルが呼び止めてきた。

 

 

 

 

何だろうと思って振り向いたら、彼の両手が俺の頬に添えられて。

 

 

 

 

そっと唇が重なり、離れる。

 

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

うっひゃー幸せ過ぎて怖い近々死ぬんじゃないか俺。

 

 

…いや、物騒な冗談はさておこう早く行かないと置いてかれちゃうし行きたくなくなっちゃう。

 

 

 

よし!

 

 

 

行って来ますと返して、俺は電車の外…終着点に足を踏み入れた。