一六片目:Weke up


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず思ったのはそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、自分が横たわってる事に気付いて、ゆっくりと身体を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に映ったのは部屋………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いや、列車の車両…?

 

 

 

 

え、俺、何で列車に乗ってるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確か、語が誰かに連れて行かれそうになって、あいつの手を取って。

 

 

 

 

 

頑張ったけど、無理で。

 

 

 

 

手が、離れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから…どうしたんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が重くて、頭も若干痛い。

 

 

 

 

でも気にしてる場合じゃない。

 

 

 

誰か探さないと。

 

 

 

 

 

 

掛かっていた毛布を退け、座席から腰を上げてドアを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、視界が普段よりも高い気がした。

 

 

 

 

 

その理由はすぐに分かる。

 

 

 

ふと見やった窓に映った俺の髪が、胸よりも下にまで伸びていたからだ。

 

 

 

それだけじゃない。

 

 

 

肩がずり落ちる程に大きかった筈のパーカーが、ぴったりになっていた。

 

 

 

 

 

 

頭が徐々に冷えて。

 

 

 

 

裏腹に、鼓動はどんどん早くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体、どれ程の時間が経った?

 

 

 

 

 

 

 

 

歩みを止め、地べたに蹲る。

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は何処だ。

 

 

 

 

 

あれから、どうなったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアが開く音がした事で、反射的に顔を上げる。

 

 

そんな俺を驚いた様に目を丸くして見ていたのは……ヴォルク、だった。

 

 

彼の手から零れ落ちたハードカバーの本が、地面とぶつかり音を立てる。

 

 

ゴーグルもマフラーもグローブもしてなくて、白衣の裾は綺麗になっていて、

ポニーテールの位置は随分と下になっていて、眼鏡をかけていたけど。

 

白い髪と褐色肌、切れ長の赤い瞳は、紛れもなく俺の親友のものだった。

 

 

 

「…おはよう、サクラ」

 

 

ヴォルクは噛み締める様にそう言って、心底ホッとした様な笑みを浮かべた。

 

 

それは随分と自然な笑顔で。

 

彼自身の成長を物語っている気がした。

 

 

 

時間の、経過も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルクから手渡された服に着替えて、

預かってくれてたという桜の飾りが付いたゴムで髪を適当に纏めて、

その後、色々な事を教えて貰った。

 

 

 

語と創造の本は、神様のバグの様な存在(すずろって人がカンナと名付けたらしい)

に連れて行かれたという事。

 

 

誘拐の巻き添えを喰らい掛けた俺や、白紙化される前の世界からヴォルクやリヴやイリーナ、

アリアさんやフィアさんを助けてくれたのが、

神様(ルピナスだってさ。本当は二重人格なんだけど、もう一つの人格は今眠ってるらしい)

という事。

 

 

神様の住んでいる場所(永久城)がカンナに奪われ、その奪還+語を救出する計画を立て、

現在あの日から数年(大体三年くらい)が経過しているという事。

 

 

この列車は神様の私物で、拠点になっているという事。

 

 

 

中々に、というか物凄く奇想天外な内容だったけど、

誰よりもそういう話を否定しそうなヴォルクが真面目に話して来たんだから信じざるを得ない。

 

 

 

「ここまで話せばいくら馬鹿なお前でも分かるだろう」

 

冗談めいた様子でそう言われた俺は、

 

「うん、分かりやすかったです。馬鹿なヴォルクにしては良い説明の仕方だった」

 

起きる前に比べて自分の声が明らかに低くなった事に違和感を覚えつつ、冗談を返す。

 

「馬鹿はお前だけだろう」

 

「そんな事ないわよ!お互い様よ!」

 

ほほほ!と笑いながら、俺はバンバンとヴォルクの背中を叩いた。

すると彼は、眼鏡を外して目頭を押さえ……

 

 

 

…あれ、泣いてる?

 

 

「ちょ、おま、何で」

 

 

戸惑った様子で目元を拭い続ける彼の背中をそっとさすりながら、

なんて慰めるべきか頭をフル回転させる。

 

 

 

叩く力が強過ぎたのかな……いや。

 

も、もしかして俺と数年ぶりに話せた事に感動して〜、とかそういう事なのかな?

だとしたら照れるし嬉しいんだけど!

 

 

勝手に想像してニコニコしていると、ヴォルクはポツリと言った。 

 

 

「久々のオカマ…」

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

言葉を失う俺に、ハッとなったヴォルクが弁明してくる。

 

 

「…あ、いや、その、違うんだ」

「へぇ何が違うんでしょうね!聞こうじゃないですかぁ!」

「キレるなよ」

「キレてねぇしぃ!拗ねてるだけだしぃ!」

 

何故拗ねるんだ…と呟いた後、少ししてからヴォルクは納得した様に鼻を鳴らした。

そして、目を細めてふっと口を緩め、眼鏡を掛け直しながら言う。

 

 

「懐かしくて、嬉しかったんだ」

 

 

彼の手が俺の頭に乗った。

 

「お前は変わらないな。身体はデカくなったが」

 

心底喜んでるっぽいから、手をどける気になれなくて大人しく撫でられたまま。

 

「寝てたんだし、内面の成長は仕方ないだろー」

 

と、ぶすくれてみる。

 

 

するとヴォルクは、そうだな、と笑った。

 

 

 

 

やっぱり、自然な笑顔だった。

 

 

笑う事に慣れたんだな、って気がした。

 

 

 

 

俺が止まっている間に。

 

 

 

俺が知らない時間の中で。

 

 

 

それは彼の事を思えば喜ぶべき事だって分かってる。

 

 

 

でも、それよりも彼の成長に関われなかった事が悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとなく複雑な気分になったので、話題を変えた。

 

「それにしても不思議なのがさ。

 動いてなかったのに、衰えるどころか良い感じに筋肉付いてる事なんだけどさ」

 

パーカーを脱いで腕を曲げてヴォルクに見せつけたら、彼はぼそりと。

 

 

「月一で欠かさず薬飲ませてたからだろうな」

 

 

ん?恐ろしい言葉が聞こえましたよ?

俺、寝てる間薬漬けだったって事?

 

 

「筋肉の衰弱防止、栄養不足の防止…その他諸々の効果がある」

 

フフンと得意気な顔をした所を見るに、薬を作ったのはこいつなんだろう。

 

 

何も言わずに居る事を感心と取ったのか、ヴォルクはペラペラと薬の材料名を口にし始めた。

聞いた事の無い科学的な物質名を並べられてとても頭が痛いぞ早く止めなきゃ。

ついでに気になってた事聞いちゃおう。

 

 

「ヴォルクさんヴォルクさん分かったから落ち着いて。

 ところで、この列車なんか止まってるみたいだけど?」

 

喋るのを中止したヴォルクは、あーそうだった忘れてたーみたいな目をして教えてくれた。

 

「実は三年前、創造の本を手にして力を得たらしいカンナからの攻撃を受けてな」

 

 

あれっ!思ってたより大問題だ!

 

 

「損壊したせいで列車が墜落して…下に落ちたパーツを集める事になったんだ」

 

「下…って事は今居る所だよな」

 

ヴォルクは頷いた後、ある固有名詞らしきものを口にした。

 

 

「終着点」

 

 

「しゅーちゃくてん?」

 

「此処の名称。あらゆる魂が還る場所らしい」

 

 

……って事は。

 

 

窓の外を覗いてみると、案の定というか。

真っ暗闇の中に、ほんのり発光した人影がいっぱいあった。

こっちの方を特に気にした風には見えないのは、

この列車がやって来てかなりの時間が経ったからなんだろう。

 

 

「皆は?」

「散らばった列車のパーツを探しに行っている」

「ヴォルクは留守番?」

「そうだ」

「体力無いから?」

「………………………………………………………………………………………………………まさか」

 

 

絶対図星じゃん。

 

 

そっか、そっか。体力は相変わらず無いんだ。

変わってなくて安心した。

いや、良くないけど。

 

 

 

誤魔化そうとしたのか、こほんと咳払いを一つした後、ヴォルクは真面目な顔で忠告してきた。

 

「勝手に外に出ようとか思うなよ」

 

「え……なんで?死ぬとか?」

 

「間違いなく死ぬ」

 

冗談のつもりで口にしたんだけど、見事に間髪入れず即答された。

理由を訊ねる間も無く、ヴォルクは説明を始める。

 

「死者は生者に惹かれる。

 だから、無防備に終着点に飛び出していけば、たちまち死者に纏わり付かれる」

 

ホラー映画か何かかよ。とんでもねえよ。

 

「この列車は列車本体による加護で守られているし、

 探索に出てる連中は御守りを持ち歩いているから大丈夫だがな」

 

「成る程ねー…」

 

 

待機するしかないって事か。

 

まあ、闇雲に探した所で迷子になるだけだろうし、

そもそもパーツがどんなものなのかすら知らないしな。仕方ない。

 

 

…あっ!

 

 

「パーツってヴォルに作れないの?お前、何でも作ったりしてたじゃん」

 

一応の意味で聞いてみる。

 

 

答えは帰ってこなかった。

 

 

代わりに、

 

「ヴォル…」

 

と、彼はそう呟いた。

 

 

…え、あ。

 

 

「すまん。ついクが抜けちまった」

 

 

言われるまで気付かなかった。

なんかこう、言いやすくてつい。

 

 

不満そうにしてる訳ではなく、むしろ嬉しそうにヴォルクは言った。

 

「いや、良い。それで」

 

「ヴォル呼びが良いって事?」

 

確認すると、頷かれた。

 

「こういうのを、あだ名と言うんだろう?」

 

「そだな」

 

「すずろからのあだ名は苛立ちしか無かったが、サクラのは気に入った」

 

「お、おう」

 

 

照れるんですけど。

 

 

ヴォルもヴォルでやけに機嫌良さそうにしてるし…

 

 

…とまあそれはさておき、ヴォルにあだ名付けたって事は。

 

 

 

「すずろさんとヴォルって、仲良いのか」

 

 

しまった声のトーン低くなった。

 

 

「ヤキモチか」

 

ぶえぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

バレてるぅーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

「安心しろ。すずろは苦手なタイプだ」

 

「ほっ」

 

 

………………………………………………って、いやいやいや事実だけど、ほっ…じゃねえよ!!ヴォルがめちゃくちゃニヤニヤしてこっち見てんじゃねえかヘイヘイヘーイ!!!

 

 

 

脳内でパレードを開催してる俺に、ヴォルはしみじみした様子で言った。

 

「仮にすずろと仲が良かったとしても、俺にとってサクラが最初の友人である事実は変わらない」

 

「それって特別って事ですか」

 

「当然」

 

「やめてよ照れる」

 

「実際、言った俺も恥ずかしい」

 

「だろうね」

 

 

 

 

 

少しの沈黙の後、ヴォルは口を開いた。

 

まだ頬が赤いのは本気で照れてた証だろう。

 

 

「さっきの質問への応答だが」

 

「うん」

 

「俺に作る事は不可能だと言っておこう。

 列車を調べた所、見た事も無い素材でできていたからな。

 パーツ自体をルピナスが新たに作るという手もあったと言えばあったんだが、

 相当力を消費するらしく…カンナとの対決を控えている状態でそれは避けたいという事で、

 時間は掛かるが地道に探す事になった訳だ」

 

 

カンナってやっぱめっちゃ強いのか…。

 

ううん…そんなヤバい奴に捕まった語大丈夫なのかよ………でもあいつなら上手い事やってそう。

 

     

「よく分かった、有難う」

 

「別に構わない。まだ知りたい事があれば可能な限り教えるが」

 

 

あら。めっちゃ活き活きしてるしキラキラしてる。

教えるの好きなんだなヴォルって。

 

そういえばレッド号を改造した時も解説したがってたっけ…せっかくだしここは乗っておこう。

 

 

「カンナを倒す為の具体的な計画とかってあるの?」

 

 

ヴォルは顎に手を添えて、何とも言えなさそうな反応を示した。

 

「一応考えてはある。が、成功するかどうかはやってみない事には分からん」

 

「そりゃあ、必勝法なんて簡単に見つからないと思うし、普通だって」

 

俺のフォローに納得したのか、彼は再度口を開いた。

 

「…まあ、それもそうか…じゃあ教える。

 まず、カンナはターゲットを決めたら他の存在への意識が限りなく薄れる。

 それに加え、たとえ相手が自分より力が弱かったとしても即座に殺そうとはしない。

 いたぶるのが趣味なんだろう」

 

「タチ悪いけど、速攻殺すって奴よりは隙があるな」

 

「ああ、だからそれを利用する。

 カンナの狙いはルピナスだ。自身が神に成り代わる事が目的だからな。

 そこを逆手に取って、ルピナスには囮としてカンナの注意を引き付けて貰う。

 その後は上手く誘導して、仕掛けておいたトラップにカンナを引っ掛ける。

 純粋に正面から行くのではなく、小細工を用意する訳だ

 

「成る程なあ…

 

 

うんうん頷くと、わくわくした調子で

 

「他に質問は?」

 

と訊ねられた。

 

 

やたらぐいぐい来ますなー。どうしたのやら。

うーんと…。

 

 

「ルピナスとすずろさんの他に、新しい仲間って居たりするのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…耳にしたその名前に、俺は目を見開いた。

 

 

氷室朱櫻

 

 

氷室凪彦

 

 

そして

 

 

………桜

 

 

 

 

 

「あのさ、ヴォル。桜って、目の瞳孔が俺と同じ形してたりする?」

 

俺の知ってる桜じゃない可能性があるから、一番個性的な特徴を挙げる。

しかし彼は首を傾げた。

 

「瞳孔?他人の目をそこまで観察した事は無いからな…」

 

う"…。

 

「だ、だよな…」

 

 

普通そうですよね…仕方ないですよね…仕方ない。

戻って来てから確かめよう。

 

 

 

 

ところで。

 

ヴォルが俺の顔…厳密に言うと目を、ジーッとガン見してきてるんですが。

 

 

「えーっと、ヴォル?そんなに見られると流石のサクラさんでも…あの…うん…」

 

 

照れます。 

 

 

目を背けると、すまん、と謝ってから彼は感心した様に言った。

 

「桜の形とは珍しいな」

 

「ちょっと不思議な出だからね」

 

「不思議な出?」

 

「うん」

 

 

 

そっか…まだ旅のメンバーの誰にも言ってなかったんだっけ。俺が村に住んでた事。

ヴォルの反応を見るに、母さんもじーちゃんも話してないみたいだな。

 

…そりゃそうか。

家族とはいえ許可無く喋るのは良くないって思ったのかも。

 

 

 

 

と、そんな時。

 

 

 

「たーだいまー」

 

 

呑気な声と共に、ドアが開いた。

 

 

 

 

 

 

 

その先に立って居たのは、黒髪の男性。

多分すずろさんだ。

 

 

彼はヴォルに目をやった後、口元に手をやった。

 

「やっぱ此処に居た!」

 

それから、ヴォルの隣に座る俺を見て。

 

 

「おはよ、サクラ。僕は氷室すずろ…君の義理のお兄さんだよ〜」

 

 

そんな驚きの一言を発した。

 

 

 

 

 

 

 

氷室?義理のお兄さん

 

 

え、それはちょっと変じゃないか。

 

だって俺が氷室姓になってから、すずろって名前を聞いた事は無かった。

生活の中で一度くらいは耳にしてもおかしくないのに、だ。

 

かと言って、母さんやじーちゃんにそっくりなアホ毛と、艶やかな黒髪、青い瞳からして、

血縁者だって事が嘘とは思えない。

 

 

………って事は。

 

 

 

 

「あの、すずろさん」

 

「なーに?」

 

「昔、母さんやじーちゃんにえんがちょされたんですか」

 

 

 

 

途端。

 

 

すずろさんとヴォルが、噴き出した。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ!こっちは真面目に言ってんのに!」

 

文句を言う俺に、すずろさんは肩を震わせながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

「いや、だって、どういう経緯で、そういう考えに至ったのか、分かんないし…駄目お腹痛い」

 

「えっと、ちゃんと理由はあって!」

 

 

 

 

 

…………………………………………………あ、駄目だこりゃ。

 

 

 

 

 

二人共完全にツボに入ったらしくてお話にならない状態です、はは。

まあ、後で説明するとして…今は脳内で弁明しよう。

 

話題に上がらないって事は、不仲だって事になると思わないか?

つまり、何か事件とか喧嘩とかがあって…すずろさんが家を追い出されたんだと思ったんだよ。

 

縁を切ったんじゃないかって思ったんだよ。

 

 

…………思ったんだよお"ーーーーーーーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして。

 

再起不能でぐったりしてるヴォルは置いといて、

落ち着いたらしいすずろさんに俺の考えを伝えた。

 

すると彼は、成る程ね。と呟いてから、本当の事を教えてくれた。

 

 

 

すずろさんは小さい頃に事故で死んだ後、

ルピナスの力によって永久城で蘇生して今に至るのだという。

 

死体ごと永久城に来た事で、世界(俺達が生きてた所)から失踪したも同然になって。

 

 

これはじーちゃん本人からすずろさんが聞いた事らしいけど、

じーちゃんはすずろさんが事故に遭ったと聞いてはいたものの、

死体は何処にもないし、本当は生きているかも知れない、

もしかして帰ってくるかも知れないと信じ続けていたんだって。

 

 

俺に心配掛けさせたくなかったから話さなかったのかな、と思った。

 

…じーちゃんは、影で苦しんでたんだ。

 

多分、母さんも。

 

 

 

余談ではあるけど、もしかしてあの死体が大量に消えた事件は、

死体がすずろさんと同じくルピナスに連れてかれて、永久城で蘇生されたって事なのかな。

 

 

 

 

 

 

…さて、えんがちょ発言謝ろう。

 

 

 

「失礼な事言って、すみませんでした」

 

 

下げた頭の上に、すずろさんの手が乗る。

 

「気にしてないから、謝る必要ないのに…ふふ。

 サクラって、ちゃんと謝れる良い子なんだね」

 

優しくそう言われて、優しく撫でられる。

 

 

ん?なんか子ども扱いされてない?馬鹿にされてない?

ま、まあ良いけどさ。

 

 

手が離れると同時に、すずろさんは言った。

 

「あ、ところで敬語は止めて欲しいな…さん付けも駄目。

 せっかく家族なんだし!」

 

ね?とウインクされて、断る理由も特に無いから頷くと、嬉しそうに目を細められた。

 

「えっと、なんて呼べば良いです…か……じゃなかった。なんて呼べば良い?」

 

「へへ、何でも良いよん!」

 

 

何でもかあ…じゃあ。

 

 

「すずろ兄ちゃん「う"っ…!!」

 

?!

 

「…いいね、それ。なんかグッと来た」

 

 

 

あ、喜んでたんだ。

どうしたのかと思って焦ったわ。

 

今まできょうだいがいなかったもんだから、

なんかこそばゆい感じするけど…でも同時に嬉しさもある。

 

 

 

そんな事を考えてたら、沈黙していたヴォルがもそもそと起き上がった。

 

 

どうしたんだろ、なんか機嫌悪そう。

 

 

すずろ兄ちゃんも不思議に思ったのか、首を傾げてる。

でもすぐに口の端を釣り上げた。

 

 

そしてヴォルに向かって、からかう様に、わざとらしく。

 

 

「それにしても、ヴォッちゃんって本当にサクラの事大好きなんだねぇ」

 

 

 

瞬間、ヴォルが勢い良くすずろ兄ちゃんに向き直った。

 

 

「物が水に落ちた時の音みたいな呼び方を止めろと何度言えば分かる、訂正しろ」

「ずーっと付きっきりだったし」

「話を聞け」

「てか大好きってのは否定しないんだ」

「否定してどうする事実なのに」

「いっそ清々しい程の開き直りっぷりに、すずろさんはびっくりだよ!」

 

 

 

な、何この流れ!?

 

 

 

俺も大好きだぜ!って言うべきか、何言ってんだよ〜って茶化すべきか悩んでいると、

車両に明るい声が響いた。

 

 

 

「なになに~?なんか楽しそう~!」

 

 

 

白と黒の翼が生えた、ピンク色のツインテールの少女がいつの間にか扉の前に立って居た。

 

 

 

 

視線がかち合う。

 

 

 

「あ…起きたんだね、サクラ君」

 

心の底から嬉しそうに口にした後、彼女はヴォルに言った。

 

「ヴォルくん。サクラ君に大方の説明とかしてくれた?」

 

彼が頷くのを確認して、少女は改めて俺を見た。

 

 

「サクラ君、初めまして!私はルピナスって言うんだ!

 

「よ、宜しくお願いします」

 

「そんなにお堅くしなくていいよ?リラックス、リラックス!」

 

 

いや、だって神様相手だし!!

いくらフレンドリーだからといって突然馴れ馴れしくしたら…あかんやろ…。

 

 

「早く桜ちゃん帰って来ないかな~絶対喜ぶと思うんだけど…」

 

 

“桜”

 

 

「あの…桜って」

 

 

俺の言いたい事を察してくれたのか、ルピナスはふっと微笑んだ。

 

 

「勿論、サクラ君の知ってる桜ちゃんだよ」

  

 

 

 

…やっぱり、あいつなんだ!

何年振りの再会になるんだろう…

まさか会えると思ってなかったから、めちゃくちゃ嬉しい。

 

 

 

 

「あはは、嬉しそうな顔しちゃって〜」

 

すずろ兄ちゃんが、そう言って俺の頬をつついてくる。

言われて気付いたけど口元緩んじゃってるや。

 

 

 

「へへ、なんてったって桜は、俺の一番の友達で」

 

 

 

 

と、そこで途切れさせた。

 

 

 

ヴォルが立ち上がって、早足で扉へ向かって行ったから。

 

 

 

 

 

扉の前に居たルピナスが、彼をスッと躱しつつ声を掛ける。

 

「何処行くの?」

 

「放っておいてくれ」

 

 

低い声だった。

 

 

ルピナスは肩をひょいと竦め…それから、やれやれと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラと扉が閉まる音を合図に、俺は腰を上げる。

すずろ兄ちゃんが、ねえ。と訊ねてきた。

 

「追いかけるの?」

 

その言葉に頷くと、彼は困った様に笑った。

止めるつもりはないみたいだった。