一八片目:An unreal story


 

 

 

 

 

 

 

おっといけねえ。つい寝ちまって………た?

 

 

 

 

目を開いた途端、視界がシャットアウト。

 

 

 

顔に圧迫感が襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

それが何か分かった途端、眠気が瞬時に蒸発した。

 

 

 

 

 

「サクラくーーん!!!良かったわ本当に!無事目が覚めてっ!!」

「アリアさん何がとは言わないけど当たってます凄く当たってます!!」

 

直後、新たな衝撃が加わる。

 

「ひゃっほーう!おっはよーサクラいえーい!!」

「母さんまで何やってんだちょまーーーー!!!! 」

 

 

目覚めて早々二人に頭をホールドされて呼吸困難に陥りかけていると。

 

「アリア、気持ちは分かるけど落ち着いて」

「朱櫻、加減をそろそろ覚えろお前は」

 

フィアさんとじーちゃんがそれぞれを宥めて、俺から引き離してくれた。

 

 

 

 

ホッと息を吐いて顔を上げると、丁度アリアさんが目に映る。

 

 

髪が肩までになってて、相変わらずの素晴らしいプロポーションを

以前より更に際立たせる様な装いになっていた。

 

美脚にぴったり沿うズボン…こういうのパンツって言うのかな…がやばいし、

スラッとした脚を赤いハイヒールがますます強調してる。

 

ヒラヒラしたキャミソール?からはヘソが覗いてるし、た、たたた谷間が見え…!

 

 

 

眼福女神アリア様に視線を奪われていると下から声がした。

 

「変態」

 

ヴォルだ。

そういや俺、膝枕してたんだった。

 

 

 

 

俯くと、面白くなさそうな顔の彼と目が合う。

 

 

健全な男子高校生のまま何も変わってないんだから仕方ないじゃないの…

と思いつつ謝罪した。

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

ん?アリアさんに謝るべきなのに何故俺はヴォルに謝ってるんだろ…?

まあ、彼女本人は気にしてないみたいだし気にしないでおこう(心の広さに内心合掌しました)。

 

 

 

 

問題は、言葉だけじゃ満足してないのかまだむすっとしてるヴォルだ。

 

 

 

 

「なんで膨れっ面してんの」

 

「……………………」

 

「黙ってても分からんぞ。俺はエスパーじゃないんだから」

 

「……………………」

 

「あの…ヴォルルンさーん…」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

 

う、うーむお手上げ。

だんまり決め込まれたらどうしようもねえ。

 

俺がアリアさん見てたのの何が嫌だったんだ…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………ハッ!

 

 

 

 

 

 

「もしかしてヴォル、アリアさんの事すk「違う」

 痛い痛い痛い痛いすみませんでした許して下さいお願いします!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くギリギリと抓られてから、ふんっという鼻息と共に俺の頬からヴォルの手が離れる。

ほっぺ千切れるかと思った…うううおぉぉぉ…。

 

 

まだヒリヒリする部分をさすっていると、ヴォルはむくりと起き上がり。

 

 

「サクラの馬鹿。鈍感。脳筋」

 

 

…そう言い残して車両を出て行った。

方向的に、多分行き先は俺が寝てた車両だろう。

 

 

 

 

 

 

参った。

 

 

俺の対応の何がいけなかったのか全然分からん。

 

 

 

 

 

 

 

 

本気で困ってると、女性陣がニヤニヤしながらこっちを見てる事に気付いた。

 

 

「あいつ、単純に拗ねてるだけよ」

 

 

アリアさんが呆れた様にそう言うと、フィアさんも母さんもじーちゃんも、うんうんと頷く。

 

 

 

 

異様な一体感だな。怪しいな。

 

 

 

「皆、なんか隠してないか?」

 

 

訊ねると案の定、四人は首を勢い良く横に振った。

 

 

 

完全に黒ですね。はい。

 

 

 

アリアさんやフィアさんに詰め寄るのは気が引けるし、じーちゃんもどうかと思ったから、

俺は母さんの肩を掴んで揺さぶる。

 

 

「ぬわぁあぁあぁ〜〜やめてサクラぁあぁあ〜〜!!」

「吐くんだ母さん!早く!さあさあ!」

「違う意味で吐いちゃうよ〜〜!!」

「それが嫌ならおーしーえーろー!!」

「ひぃい息子が反抗期〜〜!!」

「言えば反抗期終わるぞー!」

「やだぁあぁあぁあ!!そんな無粋な真似出来ない〜〜!!」

 

 

くっ…しぶとい…!

 

ラチがあかないので解放すると、

大袈裟でわざとらしい泣いたフリをしながら、母さんは女性車両に走っていった。

 

それに続くように、アリアさんとフィアさんも去って行く。

 

 

 

 

完全に逃げられた………

 

 

…となると。

 

 

 

俺は首をギギギっと動かして、にっこり笑う。

 

 

「教えてくれるよな?じーちゃん」

 

 

ふふ、まるで蛇に睨まれた蛙の様じゃねーか!これで秘密が明らかに……と思ったら。

 

 

 

「ぐ、ぐうぐう」

 

 

 

何だこの唐突な下手くそ過ぎる寝たフリーーー!!!!

 

 

「ちょっと、じーちゃん」

「ぐー」

「あからさまに起きてんじゃねーか」

「ぐうぐう」

「良いじゃんちょっとくらい教えてくれても」

「ぐーすかぴー」

 

 

「……………………」

 

 

絶対口割らないつもりだこれ!!

 

 

 

 

 

 

 

仕方ない、大人しくヴォルの所行こ。

 

そんであいつに直接聞こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラップまみれの車両を抜けて、扉を開く。

真っ暗だったから電気を点けた。

 

 

 

見ると、長椅子の真ん中辺り…俺が寝てた場所にヴォルが寝っ転がってて。

背もたれに顔を向けてこっちを見もしない。

 

 

 

 

ちょっと不思議に思いつつも、彼に近付いた。

 

 

 

 

 

そうする事で、気付く。

 

 

 

 

 

 

ヴォルは、俺が使ってた毛布に顔をうずめててた。

 

大事そうにそれを抱き締めてた。

 

 

彼の頭の付近には、眼鏡と濡れたハンカチが置いてあって…泣いてたのが、一目瞭然で。

 

 

 

 

 

名前を呼んでも返事が無かった。

肩が一定の間隔で上下してる所を見るに、多分泣き疲れて寝たんだろう。

 

 

 

 

 

 

俺が皆と騒いでる間、一人っきりで泣いてたのか。

 

悲しませる事はしないって、言ったばかりなのに。

 

 

 

 

 

罪悪感と後悔で押し潰れそうになっていると、ヴォルが寝言を呟いた。

 

 

 

 

 

俺の名前と。

 

 

 

 

 

 

好意を示す、二文字の言葉。

 

 

 

 

 

 

 

心臓が跳ねる。

 

 

同時に、何とも言えない感情が押し寄せて、俺は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラバラだったピースが、瞬く間に合わさっていく。

 

 

 

この一言で、ようやく分かった。確信が持てた。

 

 

 

すずろ兄ちゃんやルピナスがカンペで囃し立ててきたのは、

ヴォルの事を応援してたからなんだ。

 

 

母さんが秘密を口にする事に対して無粋だって言ったのは、

ヴォルが俺の事を好きだって知ってたからなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らずの内に乾いた笑みが零れ。

 

椅子を背もたれにして、地面に座り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

最低だ、俺。

 

ヴォルの言った通り、馬鹿で鈍感で脳筋だよ本当。

 

自分が嫌になる。

 

 

期待させて落としてたって事じゃねえか。

 

 

嫌だって拒めば良かったのに、それをしなかったから…どっち付かずの中途半端だったから、

こいつを喜ばせた上で傷つけてたんじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝を抱きかかえて、額を押し付けた。 

 

 

 

 

ヴォルの気持ちを知った今、俺が出来るのは…受諾と拒絶の、二択。

 

 

 

 

受け入れるか、受け入れないか…たったそれだけ。

 

 

 

 

 

瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

深呼吸する。

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、サクラ?」

 

 

反射的に声の方を見ると、起き上がったヴォルがこっちを見ていた。

眼鏡越しの赤い瞳が瞬く。

 

綺麗だなーと思いながらじっと見てると、

彼は段々意識がはっきりしてきたらしく、やがてハッとなって独り言を零した。

 

 

「そ、そっか俺鍵掛け忘れて…あ…ぁぁあ…」

 

 

ハンカチやら毛布やらを慌てて自分の後ろに隠しつつ(正直全然隠せてない)、

困惑した様子でヴォルは言った。

 

「サクラ、あの、これは違う。

 ちょっと水溜まりがあって、それを拭こうとハンカチを使って…」

 

 

言い訳がかなり無理矢理で苦しいのは、それ程焦ってる証拠なんだろう。

 

 

「あ、毛布はな、少し肌寒くてつい。

 け、決してサクラの匂いがして落ち着くとかそういうのではなくて…」

 

 

意図せずバラしてるし。

そっかそういう事だったのか。

 

 

「あのさ、ヴォル」

 

 

優しく声を掛けたつもりだったけど、彼は怒られるとでも思ったのか肩を跳ねさせた。

 

 

「俺別に全然怒ってないよ?むしろ怒るのはヴォルの方じゃん」

 

「俺が怒る………何故そうなるんだ?」

 

 

きょとんと目を丸くしてる彼に、俺は頭を下げた。

 

 

「悲しませないって言ったのにまた泣かせて…本当に、ごめん」

 

 

恐る恐る顔を上げると、彼はふるふると首を横に振った。

それどころか、むしろ申し訳なさそうに。

 

 

「俺の方こそ、悪口なんか言ってすまなかった。

 前回の失敗を活かせずに、勝手に嫉妬してサクラに当たるなんてな…反省してる」

 

 

 

じゃあ泣いてたのは、悲しかったからじゃなくて後悔してたからって事…?

 

 

うっ…白衣をギュッと握り締めて縮こまってる姿に物凄い愛しさが湧いて…

 

 

 

 

 

 

…と思った時には、思いっきりヴォルを抱き締めていた。

 

 

 

 

 

「さ、さささささサクラ?!」

 

 

 

 

…………………………あったけえ。落ち着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くあぁとかうぅとか呻きながらも大人しくしてたヴォルが、静かになった頃。

俺は一旦離れて長椅子に正座してから、もう一度抱き締め直した。

 

うん、思った通り。

座ってるヴォルに立ちながらくっつくよりは、こっちの方が密着具合が良い感じ。

頭が胸の辺りに収まるし、顔も見えるし…

 

 

 

 

あ、上半身だけこっち向きに方向転換された。

これはこれで抱きやすいからいっか。

 

 

 

 

 

「サクラ、も、もう止めてくれ」

 

震える声でヴォルがそう言う。

 

 

言葉に反して、彼の腕からは俺を突き放そうという意思が感じられないし、

彼自身離れるつもりは無いみたいだった。

 

 

 

それを良い事に抱きしめる力を強くしたら、観念した様に腕を背中に回された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォル。俺がもし、お前の事好きだって言ったらどうす……わ!急に顔上げんなよ!?」

「だ、だってサクラが変な事言うから!」

 

必然的に上目遣いになる上にめっちゃ頬赤くなってて、

くっついてたせいで少し眼鏡がズレてて……何が言いたいかというと、最高です。

 

 

寝てた時に解けかかってたらしいリボンが、地面にひらひらと落ちて。

ヴォルの透明感のある綺麗な髪が、俯いた彼の顔にかかる。

 

 

「で、どうなんだ?そう言われたら」

 

「嬉しい…し、幸せ…だが。で、でもそんな事、あり得る訳」

 

「あり得るから訊いたんだけども」

 

「…これ夢か」

 

「いんや、現実だねえ」

 

「嘘」

 

「本当だって。好きだよ、ヴォル」

 

「信じられない」

 

 

初めての告白をまさかこんな真顔かつ秒単位で否定されるとは。

 

 

言葉で駄目なら行動で示すしかないな…でも、こういう時どうすれば良いんだろ。

恋愛経験なんてないから分かんねえ。

 

 

そんな事を考えながら、ふとドアを見たら。

 

『カップル成立?成立?☆彡☆彡』

 

そんなカンペを持ったすずろ兄ちゃんwith母さんが見えた。

 

 

 

俺は瞬時に扉の前に移動し、ドアに付いてたカーテンで窓をシャットアウトして鍵も閉めた。

 

 

よし、完璧。

 

 

 

 

ヴォルが駆け寄って来ながら

 

「どうかしたのか」

 

と訊ねて来たので、何でもないよと笑顔で返す。

 

 

 

 

 

…二人共、後でシメる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か向かい合って地面で正座してるのにはあえてツッコまず、質問してみた。

 

「どうすれば信じてくれる?俺がお前を好きだって」

 

するとヴォルは耳まで真っ赤にしながら。

 

「いや、信じてはいる。サクラの言う事だし。

 だが、その、嬉し過ぎて、な?現実味がなくて、さっき、ああ言ってしまっただけで…。

 …あの、俺もサクラの事が…好きだ

 

 

はにかむ様な笑顔と涙のダブルコンボは流石に反則過ぎた。

 

 

 

 

気付いたら押し倒してた(頭打たないように手を添える余裕はあったけど)。

 

 

 

 

 

目と目が合う。

 

 

 

心臓がうるさい。

 

 

 

ヴォルが目元を潤ませながら、期待した様に見上げてくる。

 

 

 

 

 

 

あ、これはやばいかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

生唾を飲み込んだ時、ドアがスライドする音がした。

 

 

「はっはー!残念だったねサクラ!

 僕は副リーダーとしてマスターキーの使用を許可されているのだ………?

 

 

「えっ」←俺

 

「えっ」←すずろ兄ちゃん

 

「えっ」←ヴォル

 

「あっ」←母さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場が凍る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙を破ったのは母さんだった。

 

「兄さんこれ駄目なやつ。絶対邪魔したら駄目だったやつ」

 

「スライディング土下寝で許して貰えたり…」

 

「する訳、ないかも」

 

……………………………………………………………………………。

 

 

「「逃げろーーーー!!「待ててめえらぁあぁああぁああああああぁあああぁあぁあ"!!!!」

 

 

 

 

 

 

いや、正直ストップ入って安心したんだけどさ。

あのままだと俺何するか分かんなかったし。

 

 

 

まあいっか。

 

 

 

とりま、シメとこう☆彡