五片目:Believe


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い絨毯の上を進みながら、『私達がかつて生きていた世界』の本を探します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界図書館』があらゆる事実が集まった情報の宝庫である以上、

世界が滅亡した原因がその本には記されている筈だからです。

 

 

 

………………………とはいえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………うーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………見つからないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、この図書館の中は時間の流れが特殊らしく、此処に来てから全くお腹が空きません。

それどころか、眠気もありません。

 

恐らく本が劣化しない様、この空間の時間を停止させているのでしょう。

 

 

体感的には随分と長い間此処に居る気がしますが…正確な時間が分からないので何とも言えず。

とはいえ早く戻るに越した事はありませんし、パパッと見つけてしまいたいものです。

 

…まあ、私達の世界の他にも女神様が作った世界の本もありますし、

膨大な数からピンポイントに見つけるとなると、相当難しいんですけれどね…。

 

 

 

 

 

気が重くて肩を落とした時。

 

 

 

「桜ちゃーーーーーーーーーん!!」

 

 

「す、すずろさん?!」

 

 

 

 

来た道を振り返ると、予想的中。

すずろさんが此方に向かって走って来ていました。

 

 

運動音痴さ全開のフォームで。

 

 

ダバダバしながらこっちに来た彼は、肩で息をしながら口を開きます。

 

 

「ルピナスが、桜ちゃんに、渡し、忘れてた、物が、あるって、言ってさ…。

 パシr…代わりに、持って、来た、んだ…」

 

 

 

今、パシリって聞こえた様な。

 

まあ良いですとりあえず。

 

 

 

「それ、何ですか?」

 

 

すずろさんが手にしている掌サイズのキューブを指さしながら訊ねると、

彼は深呼吸を数回してから何故か得意気に答えました。

 

 

「本が何処に収納されてるか分かる、便利アイテムだよん!

 早速使ってみよ~~」

 

 

すずろさんがキューブの面をポチッと押すと、キューブがバラバラに崩れた……

…かと思えば、みるみる内にパソコンの様な形に再構築しました。

 

浮かび上がったディスプレイに、黄緑色の髪、木でできた角、肘の先から伸びるつる…等、

植物を連想させる無表情な女の子がマスコットサイズで表示され。

 

 

元気よく一言。

 

 

『見つけたい本の情報を入力するがいいぞ!』

 

「ほいさっさー」

 

 

(意味があるのかは分かりませんが)適当に返事をしたすずろさんは、

宙にプカプカと浮かんでいるキーボードに手を添え、何やら打ち込み始めます。

 

…タイピング速いなー。

 

 

すずろさんがキーボードから指を離したと同時に、

マスコットの女の子が相変わらずの無表情と元気な口調で言いました。

 

 

『へい!合点承知の助!アンフィーサ・紡・ソフィーヤの世界の歴史を記した本だな!

 ではでは検索を始めるので、暫くお待ち下され〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

興味深くてパソコンの中の女の子を眺めていると、彼女は急にこっちを見て。

 

 

『んん〜〜?なになに、そんなに見つめられると照れるんじゃけど?

 ――――ハッ…さーてーは~~~…私の美貌に見惚れちゃったかにゃーっ!?』

 

 

え。

 

 

「あ、そういうのじゃなくてですね。ただ、どんなプログラムを使えばこんなに流暢な発音や動作が実現出来るのk

『マジレスやめろーーーーー!!見惚れてましたって言えやーーーーー!!』

きゃーーーーーーごめんなさーーーーい!!!!」

 

 

物凄い怒声を発したにも関わらず、女の子は無表情のままでした。

 

 

 

…表情はさておき、会話が成立するなんて凄い。

 

こっちの存在をきちんと認識している上で受け答えをしているみたいですし、

どういう仕組みになっているんだろう。気になります。

 

 

感心していると、すずろさんが教えてくれました。

 

 

「このキューブ、女神様が作ったんだってさ」

 

 

「…じゃあこの子はもしかして、女神様がモデルだったり?」

 

 

『イェース、その通り〜〜。私は女神様の外見と人格をモデルにした人工知能なのだよ。

 あ、人工知能じゃなくて神工知能かな?あははのは!

 

 

表情筋が死んでいるのか、ピクリとも頬を持ち上げずに声を上げて笑う女の子…

もとい女神様のAIに、すずろさんは死んだ魚のような目でヘラヘラ笑いながら言いました。

 

 

「うっわすっごくつまんなーい☆」

 

『生意気な小僧だなこいつめー☆』

 

 

すずろさんに向かってシャドウボクシングみたいな動作をする女神様AIに、私は苦笑します。

 

 

「女神様というからには、こう…凄く近寄り難くて話通じないのかなと思っていたのですが、

 意外とフランクで人間味あるんですね。びっくりしました」

 

「桜ちゃんって悪意無しにフォローになってないフォローする事割と多いよねー」

 

『素直とも取れるではないかー良い事ではないかーうむうむ。

 てかそう思うのも無理ないしー?私は親しみやすい偉大なる母だからねえ、ふふーん!』

 

「あ、全然気にしてないどころかむしろポジティブシンキングだこっちもこっちだな。

 なんていうかどっこいどっこいでプラマイゼロだね。ナイスコンビ~~」

 

 

あっれれー??もしかしなくても馬鹿にされてます???

 

…まあ、これ私の悪い癖ですし、否定出来ないので何とも言えないのですが…。

 

 

『おや?そうこうしてる間に検索ヒットしたっぽいぜよ。

 案内してやるから、ついて来るよろし〜〜』

 

「女神様の口調ってめっちゃ安定感ないよね」

 

『つべこべ言うなぃ。細かい事気にしてたら禿げるぞ』

 

「は………げ……ッ?!」

 

 

すっかり意気消沈してしまったすずろさんを励まそうと、私は彼の肩を叩き。

 

 

「死んだ魚みたいな目とハゲ頭、凄く哀愁を感じてピッタリだと思います!」

 

「ワーイアリガト〜〜!!!!」

 

 

…あ、しまった。

 

またやってしまった。

 

 

 

女神様AIはもはやデフォルトと化した無表情のまま、呆れた様に私に助言を下さりました。

 

 

 

 

『娘。君は口開かん方がええタイプ確定☆』

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

ぐうの音も出ないとはこの事でしょうか!あはは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すずろさんは本当にパシ…こほん。

 

頼まれた物を渡しに来てくれただけらしく、やる事があるからと去って行きました。

 

本の位置さえ分かってしまえば十分なので、用事の邪魔になってもいけないし、

お礼を言って見送りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この先を辿れば、本が見つかるぞな』

 

 

「分かりました

 

 

元の掌サイズに戻ったキューブから出ている光の線を頼りに、私は歩き出します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キューブ状でも会話は普通に行えるらしく、お喋り好きらしい女神様AIは口を開きました。

 

 

『ところでなんで此処に来たんだい、娘よ』

 

 

 

「えっと…探し物です」

 

『うん、だろうね。そりゃそうだろうね。

 私が聞きたいのはそういうんじゃなくてさ~…分かるっしょ?』

 

 

…理由とか原因を聞きたがっているという事でしょうか。

 

 

『AIだから話しても無駄とか思ってるんなら大きな間違いだぜ。

 私はモデルになった女神の知識を所持してるし、力になれるかも知れないよん?』

 

「え、そうなんですか」

 

『そうなんですよ』

 

 

 

………………………ふーむ。

 

話してみる意味はあるかも知れないですね…うん。

 

 

 

「実は貴方が…というか貴方を作った女神様が作った女の子が作った世界が滅亡しまして」

 

 

『滅茶苦茶作るって単語出てきたなおい』

 

 

「すみません事実です。黙って聞いて下さい」

 

 

『毒舌が留まる所を知らないなあ君は!』

 

 

私は続けます。

 

 

「…その世界が滅亡した原因が分からないので、調べに来たんです」

 

 

『ふーん』

 

 

 

ふーんて。

 

 

 

『…原因っていうのは、手段の事?それとも、経緯の事?』

 

 

 

 

 

あ。

 

 

 

 

 

そういえば、どっちなのか聞いてなかったかも。

 

…んー。

 

 

 

「一応、どっちもが良いかなぁ、と」

 

 

『成程ねえ』

 

 

 

 

 

 

女神様AIは暫く沈黙した後、口を開きました。

 

 

『手段に関しては、まあ君の求める本を読めば一発だろう。

 でも、経緯に関しては管轄外だ』

 

 

「書いてないんですか」

 

 

『うん。だって、今君が探しているのは世界の歴史だし。

 どうして滅んだのかっていう事は書いてあるけど、

 世界を滅ぼした者の内面みたいなものに関しては当然の如く触れられていないのよね。

 経緯ってのは、そいつが何を考えてそうしたのかっていう事だから』

 

 

「…でも、犯人の名前くらいは本に書いてあるんじゃ?」

 

 

『んー、そうね。それは勿論書いてある。

 とはいえ、経緯について調べるとしたらあれだよ。

 歴史の本を探した後にその犯人の本を探す事になるから、完全に二度手間になるよ』

 

 

「それでも構いません」

 

 

『そうか。分かったぜ

 

 

 

 

よし、これは良い流れです。

 

予想以上の収穫になりそうだし、ルピナスちゃん、喜んでくれるかも。

 

 

 

『ところでさ』

 

 

「何でしょう」

 

 

『君、検索エンジンも無しによくこんなだだっ広い図書館で本なんか探そうとしてたよね』

 

 

「それに関しては自分でもちょっとおかしいなって思いました。

 凄い無茶なお願いされてるなーって思いました」

 

 

『ん?頼まれ事なの?』

 

 

「はい。この城で留守番をしている子に」

 

 

『ルピナスとリコリスか。そっかそっか…あの子らも世界創造に興味あったのねー…』

 

 

女神様の知識や性格を持っている以上、女神様本人と言っても差し支えない位の存在である

女神様AIは、感慨深そうにそう言ってから。

 

 

『元気にやってる?あの子達。

 一人だけで留守番ってのはあれだしと思って双子にする予定がうっかり間違えちゃってさ。

 不自由してないか心配してるんよ』

 

 

不自由か否かと言ったら、そりゃもう不自由しまくりとしか言えません。

 

 

「交換日記じゃないとやり取り出来ないみたいですし、凄く大変そうにしてますよ。

 それに、最近はリコリスちゃんが日記を書いてくれなかったみたいだし」

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして。

 

 

 

 

 

 

 

『リコリスが何をしてるのかさっぱり分からないって訳か。

 じゃあもう調べるまでも無いんじゃないの?』

 

 

 

 

女神様AIの言葉に、心臓を掴まれた感覚に陥ります。

 

 

 

 

「いや、そんな訳」

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………無いと、言い切れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界を滅ぼすなんて並大抵じゃ出来ない。

 

 その様子だと君に指示を出したのはルピナスみたいだけど…

 何日も掛けてじっくりと滅亡したのであれば、流石のルピナスでも気付く。

 

 そうじゃなかったから…何日どころの騒ぎじゃなかったから、

 今此処に原因を探しにやって来ているんだろう?』

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

『世界を一瞬で終わらせられる奴なんて、神様くらいしかいないじゃないか』

 

 

 

 

「…まだ、そうと決まった訳では」

 

 

『いやまあ、うん。でも何故そんなに否定しようとしてるんだい?

 ルピナスを擁護したいなら分かるけど、リコリスは君と交流があった訳でもなさそうだし、

 認めたくないという理由が私には分からない』

 

 

 

交流の有無じゃない。

 

確かにリコリスちゃんと話した事は一度も無いし、

彼女が城で行ってきた事が良い行いとは言えないけれど。

 

 

 

だってあの子は。

 

 

 

「ルピナスちゃんの、大切な子なんです。

 きっとルピナスちゃんは、今回の件でリコリスちゃんを疑っていない」

 

 

 

疑っていないからこそ、リコリスちゃんが犯人だと決めつけなかったからこそ、

私に原因の解明を頼んだのだと思うから。

 

 

 

「私は、ルピナスちゃんを信じてる。

 だから、彼女が信じているのなら私も信じたいって、思うんです」

 

 

『…何とも綺麗な友情。そして言葉。ルピナスが聞いたら喜ぶだろう。

 リコリスもそうかも知れない。

 あの子達が恵まれてると知って、私は嬉しいよ』

 

 

 

女神様AIは嬉しそうにそう言った後、静かな声で。

 

 

 

『だけど君のそれは、優しい嘘だ』

 

 

 

女神様AIの顔は見えないけれど、無表情な瞳が射抜いている様な…

私の心の中を見透かしている様な気がしました。

 

 

 

『仕方がない、こればかりは。君の気持ちはよく分かる。

 言葉にして自分に言い聞かせようと思ったんだろうけど、

 リコリスへの疑いを捨て切れていないだろう』

 

  

私の沈黙を肯定と取ったのか、女神様AIは続けます。

 

 

『でもね、神の視点から言わせて貰うとね。

 正直、自分が作った世界をどうしようが勝手だと思うんだ。

 壊したくなったら壊せばいいし、要らなくなったら捨てれば良い。

 …自分の作った物を手放そうが自由、と言ってしまえばそれまでだと思うんだよ』

 

 

「命が其処にあっても?」

 

 

『その命すら、言ってしまえば自分が生み出したものだ。

 言いたくはないけど、物と言っても差し支えないんだよ。

 ルピナスの様に神様らしくない思考の方が、正直異端さ』

 

 

「そんなの、おかしい」

 

 

 

命すら、物扱いなんて。

 

自分で作ったのなら、殺しても良いなんて。

 

 

 

自分で生み出した命を奪う事はおかしいと言いたいのは、分かる。

 到底許される事では無いし、罰せられて然りだ。

 

 だが、君の世界でも産んだ子を殺す母親が皆無だったとは言えないだろう?

 何の責任も持たず、産むだけ産んで放置する奴だっている。

 

 常人からすればおかしな行為だとしても、そこから外れた者に常識は通用しないのさ。

 神様みたいにスケールが大きければ、それは尚更だ。

 

 だから神様という異常に、普通が通用しないのは当たり前。

 むしろ神様からすれば、何でそんな事をいちいち気にするんだって位、小さな事なんだよ』

 

 

どうして、と訊ねる前に答えが続きます。

 

 

『神様はいくらでもやり直せる。命だって指先一つで生み出せる。

 価値や尊さ、そういったものを感じる事が出来ないんだよ。

 余りにも膨大な力は、そういった感覚を麻痺させてしまう』

 

 

 

でも。

 

 

 

「でも、ルピナスちゃんは違います」

 

 

『うん。私のモデル…女神リディアが作った数多の世界の中には

 神と呼ばれる存在が居る世界もあるんだが…

 

 …正直、力に溺れて下の者を見下すのが当たり前みたいになっている。

 だからルピナスは神様としては異常で…

 

 …でも、だからこそ尊いんだ。

 だがきっと、最初からそうだった訳では無い筈さ』

 

 

女神様AIは、ゆっくりと噛み締める様に言いました。

 

 

人と関わりたい、人を知りたい、共に生きたい……そう考えて、

 君達人間と関わる事を望んだからこそ…あの子は変わったんだと思う』

 

 

神様(AIではありますが)という立場としては、

異端であるルピナスちゃんを心配しているのでしょうか。

 

でも、きっと女神様AIの中では、喜びの方が勝っている気がします。

 

 

だって。

 

 

『異端とはいえ喜ばしい事に思えるなんて、私もおかしいのかも知れないねえ。

 …ん?あれれ?おかしいぞう。大本の女神である私にとってこれが普通なのであれば、

 神様はこれが普通じゃなきゃ駄目って事になるのでは???』

 

 

…そんな冗談を言うくらいなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話に熱中して知らぬ間に止めてしまっていた歩みを再び再開させると、

女神様AIはやたらハイテンションになりながら。

 

 

『いやぁ、変にペラペラと喋ってしまった失敬失敬!もっと楽しい話をしよう!

 なんだこの辛気臭い雰囲気!HAHAHAHAHAHA☆

 

「は、はいそうですね。明るい話題だと私も嬉しいです。

 …でも急にどうしたんです?バグりました?」

 

『後半部分は余計だぞ☆』

 

 

…そういえば、さっきしれっと女神様AIのモデルが“リディア”って名前だと判明してましたね。

 

 

「あの、リディアちゃんって呼んでも良いですか」

 

『女神相手にちゃん付けとは、中々の度胸ですな。

 流石ルピナスと友達やってる女の子だわ。神友なだけはあるわ』

 

「駄目ですか?」

 

『いや??良いけど??そんなに呼びたいなら仕方なく許してあげるけど???

 だって私は心の広い女神様だしー?????』

 

「嬉しそうですね」

 

『そんな事ありますけど?!』

 

 

半切れなのは照れ隠しなのでしょう。つくづく読めない女神様AIです。

 

 

「もしかしたら私、実際に会えたら女神様とお友達になれたりするんでしょうか。

 貴方みたいに」

 

『どうだろねえ。私のモデルの放浪癖は治せないレベルだし、

 君が生きてる間には帰って来ないだろうし、無理かもなあ。つーかしれっと友達認定かよ有難うよ…

 

「そうなんですか…それは残念」

 

『残念がるなよ。AIとはいえ女神自身でもあるから自分が言われてるみたいで照れるだろ。

 まあほら。女神様のお友達にならなくても神様の友達にはなってる訳だしさ。

 ルピナスの事、宜しく頼むよ』

 

 

キューブを展開し、ディスプレイを表示させたリディアちゃんは、

そう言ってぺこりとお辞儀をしてきました。

 

私が頷くと、彼女の頬がフッと緩んだ様な気がしました。

 

 

多分目の錯覚かも知れないけれど、嬉しくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

『いっ』

 

 

「う………いやいや、ふざけないでリディアちゃん」

 

 

『ごめんごめん』

 

 

 

…こほん。

 

やり取りはさておき、見つけました。

 

 

光が示している先にある一冊の本…紛れもなく、目当ての本です。

 

 

 

『結構高い所にあるねえ。

 ちょっと待ってな、取って来てやるから』

 

 

「有難う」

 

 

 

キューブは本棚に沿う様にスッと上昇し、腕の様なパーツを作ったかと思えば、

本をしっかりと掴んで戻って来てくれました。

 

 

感謝の言葉と共に受け取り、早速本を開くと

 

 

『多分、一番最後のページ見れば良いと思うよ。

 滅亡した時点でその世界の歴史は途絶えたと同義だし』

 

 

リディアちゃんがそう教えてくれたので、助言に従い最後のページに目を通します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処に書かれていたのは、世界が滅亡した日付…6月14日。

 

そして、世界が滅亡した原因…大量の隕石の落下と、殺人ロボットによる被害、諸々。

 

 

 

でも、分かったのはそれだけでした。

 

 

 

…恐らく犯人の名前が記されていたであろう場所が、破かれていたのです。

 

 

 

 

事情を説明すると、リディアちゃんは困った様に言いました。

 

 

『こんな筈は無いんだがのう…。

 

 普段はルピナスとリコリスの部屋ですやすやと待機している私ではあるが、

 電源を入れて貰えれば世界図書館に特化した性能である以上、

 フル活動中の今、此処の事情は網羅出来るんだがね?

 

 エレベーターの監視カメラを探ってみたものの、

 すずろと君以外に誰かが最近此処へ来たという記録が見当たらない』

 

 

「じゃあ、一体誰が…」

 

 

『分からない。しかし安心せい…リコリスが犯人では無い事は確定した。

 

 リコリスはエレベーターを介さない限り此処へは来れん。

 ワープ能力を持つのはルピナスであって、リコリスでは無いからな。

 

 仮にリコリスが犯人だった場合、証拠隠滅の為に訪れページを破る可能性はあるが、

 そういう訳で犯行は不可能。

 ワープ出来るルピナスが破りに来るとしても、あの子が世界を滅亡させる理由が無い。

 

 …つまり』

 

 

「他の誰か…エレベーターを使わずに足を踏み入れる事が出来る誰かが

 これをやった…って事?」

 

 

『うむ。これはまずい』

 

 

 

みるみる内に、自分の背筋が凍っていくのが分かりました。

 

 

 

『桜、急ぎ此処を出て、ルピナスにこの事を伝えよ。

 その後は、絶対にあの子の傍を離れるな。

 得体の知れない敵から君を護れるのは、ルピナスだけだ』

 

 

 

事情を知った今、真っ先に消されるのは。

 

 

 

 

 

 

……………………私?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアちゃんは本を片付けた後、私の手を引いて出口へ向かい始めます。

 

 

しんと静まり返った世界図書館の中、もしかしたら犯人が此方を見ているのかも知れないと思うと

怖くて怖くて死にそうでした。

 

正直泣きました。

 

リディアちゃんが居てくれなかったら終わりだったろうなと本当に思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

…こんなに必死に走ったのは、あの火事以来でした。