四片目:Let's do what we can.


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突ではありますが、私は今、図書館に居ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い長い距離をエレベーターで下った先に広がっていた、しんと静まり返った場所。

紙やインクの匂いが漂っていて、先の見えない高さの本棚が、どこまでも続いている。

 

 

 

膨大な広さを誇るこの図書館の名は『世界図書館』

 

 

 

ルピナスちゃん曰く、数多の世界と、そこで生きた人々を記録した本が存在している

 

…この城で最も重要な施設。

 

 

 

 

 

誰も立ち入る事は許されず、それどころか存在すら知らない。

 

 

そんなひた隠しにされていたこの場所に、何故私が居るのかと言いますと…

簡単に言えば、ルピナスちゃんに調べ物を頼まれたからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が滅亡した原因を探して欲しい、という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後にルピナスちゃんに会ったのは、6月15日…三人で遊んだ、翌日の朝。

 

彼女は蒼白な顔で、世界が滅亡したという事を報告してきました。

 

 

 

突然の出来事。

 

 

予期せぬ事態。

 

 

 

事情説明の前提として与えられた情報には勿論戸惑いましたが、紛れも無い現実。

 

あれこれ考えても仕方が無いと割り切り、今に至ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…世界が滅亡してから知った事は、余りにも多かった。

 

 

 

ルピナスちゃんとリコリスちゃんは、

自分が留守の間城を守る様に、と女神様の手によって作られた神様であった事。

 

 

女神様が沢山の世界を作り上げた事を知った二人が、

自分達もやってみようと真似した結果が、私達の世界だったという事。

 

 

厳密に言うと、彼女達は世界を作る事が出来る力を持つ『創造の本』を生み出し、

『創造主』なる人を作成。

 

その人に『創造の本』で世界を作らせたそうです。

 

 

何故そんな遠回りをしたのかという理由に関しては、

自分達が想像もしない世界になった方が面白いから、という…何というか神様らしいものでした。

 

 

 

 

…つまり。

 

私達の世界は女神様が作った世界と事情が大きく異なっていたという事が判明したのです。

 

 

 

こんなに急に何の前触れもなく世界が滅んだのは今までに無いケースだ、

とルピナスちゃんは驚いていました。

 

それから、今後何か起きては困るから『試練』が終わり次第『創造の本』を回収して

世界の運営を中止する、とも言っていました。

 

 

 

賢明な判断かも知れません。

 

随分と長い間『創造の本』による世界の創造を『創造主』に行わせていたそうですし、

『創造の本』にガタが来ても仕方無い気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スケールの大きな話の数々に困惑した中、何より一番驚いたのは、

私が生前住んでいた村があの世界において重要な場所であった、という事でした。

 

 

あの村は、死者が『終着点』へ行く際のポータルとなる霊樹を中心に存在していて。

 

その村に住む人々が霊樹を守っていて。

 

人々は霊樹に守り人として認められた証…桜の形の瞳孔を持っている。

 

 

 

 

 

…私の目の瞳孔は、桜の形をしています。

 

まだ幼くて何も聞かされていなかったけれど…あの火事が起きていなくて普通に成長していれば、

私も守り人として生きていたのかも知れません。

 

 

 

尚、守り人の力によって、火事で霊樹が失われる事は無かったそうです。

 

死んだ人は本能的に霊樹に引き寄せられるそうなので、

『終着点』へ行ってしまう前にこっちに連れて来ないといけない、

とルピナスちゃんは頭を抱えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。ここまで語っておいて今更ではありますが、説明を一つ。

 

 

 

 

『創造主』とは、文字通り世界の創造を行う為に生み出された人を指します。

正しくは、世界の創造を終えた人の事。

 

『創造主』は役目を果たした後、次の世界の創造の日に備え、子を成します。

その子供が『次期創造主』

 

しかし、世界が滅びない限り『次期創造主』の座は持ち越されます。

代々血を繋いでいき、世界が滅べばその時の『次期創造主』が『試練』を受け、

『創造主』となって世界を創造するそうです。

 

 

 

ちなみに『試練』というのは、

『創造主』が世界の創造を終えた後に何処かへ隠した『創造の本』を、

『次期創造主』が一年以内に探し出す、といったものです。

 

過酷を極める条件の様に思えますが、今の今まで続いている以上、

絶対不可能という訳でもありません。

 

 

と言いますか…仮に『次期創造主』が命を落としたとしても、

その『次期創造主』の体内から新たな『次期創造主』が生まれるらしく。

 

しかも、新たな『次期創造主』は本能的に『創造の本』の居場所が分かる上、

世界の創造を第一に考えて動くというおまけ付きとの事です。

 

 

だから、世界の創造が途絶える事はあり得ないという仕組みになっています。

 

 

新しく生まれた『次期創造主』が、どれくらい元の『次期創造主』に近いのか…というと、

残念な事に外見と元々の性格が引き継がれるだけで、記憶は存続しないそうです。

 

 

 

脱落したとしても絶対に世界の創造は行われる。

 

いえ、むしろ脱落した方が効率が良いとすら言える条件。

 

 

 

だけど、ルピナスちゃん達はわざと『次期創造主』を殺した事はないそうです。

 

 

滅んだ世界でどの様に『創造の本』を探し、見つけ出すのか。

 

どんな旅路を送り、どう成長するのか。

 

 

…それを見たいそうで。

 

 

 

 

 

あ、そうそう。

 

世界の創造と言っても、基盤となる大地は元々ルピナスちゃん達が設定していたらしいです。

つまり『創造主』が行うのはその上に何を置くかという事。

 

ケーキで例えるなら、土台となるスポンジが予め用意されていて、

どの材料をどんな風にトッピングしていくか…といった所でしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

そして『終着点』

 

簡単に言い表すなら、全ての魂が還る場所です。

 

 

 

 

私達の世界でも女神様が作った世界でも、関係ない。

死んだ人々は、皆此処へ霊樹を介して辿り着く。

 

 

霊樹が無ければ、私達は死んだ後も魂となって自分の世界を彷徨う羽目になります。

 

誰にも見えない。触れない。

 

 

ただの観察者として。

 

 

 

 

 

 

…それを防ぐ為に、霊樹と『終着点』があります。

 

 

女神様が生まれた全ての始まりの地は、全ての魂が行き着く終わりの地でもあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルピナスちゃんもリコリスちゃんも、城の留守を任されたというだけで、

本来は数多の世界の傍観者に過ぎない。

 

在るがままに、流れるがままに、世界の行く末を見るしかない。

 

干渉する事は出来ない。

 

 

だけどそれは、女神様が作った世界での話であり、

自分達が作った……いえ、作らせた世界に関しては、例外で。

 

 

だからルピナスちゃんは、不慮の死を遂げ、まだ生きたいと願った人を此処へ呼んでいた。

 

私やすずろさんも、その内の一人です。

 

 

 

 

 

 

神様である以上、人と同じ時を生きて死ぬ事は出来ない。

 

それでも。

 

 

いずれ必ず別れが来るとしても、ひと時の間でも、共に生きたいと願ったのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

何となく察せてしまうとは思いますが、この城が在る場所も『終着点』です。

 

女神様が生まれた『終着点』に女神様の住む『永久城』があるのは、

別段不思議もない当然の事ですし。

 

 

そんな訳なので、此処から逃げた所で行きつく先は『終着点』

 

 

 

はっきり言うと、出た途端に死にます。

 

 

何でも、他の世界では生きたくても生きられなかった人や、

死にたくないのに死んでしまった人が…それはもう、沢山いるそうで。

 

 

その人達が、生身の体を持つ生きている人を見つけたら。

 

 

考えなくても、分かる事ですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故こんな膨大な情報をすんなりと思い返せているのかと言うと、

ルピナスちゃんが私の脳内に直接情報を送り込んでくれたからです。

 

 

彼女は今、死体を喰らう謎のロボットの対処、

死んだ人が生を望んでいる場合はこの城へ連れて来る、

世界が滅んだ事でコピーできなくなった店の商品や食料の補填…等、

一人で沢山の仕事を抱えている。

 

 

事態はさておき、『試練』はこれまで通り行うそうで。

 

…というか『試練』が始まっているにしろ始まっていないにしろ、

『創造の本』に掛けられた封印を解けるのは『次期創造主』だけなので、手も足も出せないとか。

 

緊急事態だからサクッと殺して見つけて貰って回収するのも考えたけど、

そういうのは無粋だから嫌だし、せっかくの最後の『試練』だから見守りたいとか。

 

 

全く、危機感があるのかないのか…。

 

ルピナスちゃんらしいと言えばそれまでですけども。

 

 

 

 

 

とにかく少しでも負担を減らせる様に、頑張らないと。

 

 

 

私は、私の出来る事を。