二片目:I want to hold your hand.


 

 

 

 

 

 

 

俺と語は、二日近くお世話になった店の跡地を後にして、

世紀末みたいな世界を並んで歩いていた。

 

 

 

実はデパート探しをしてるんだ。

本探しの前に食糧と寝袋を確保する事になってさ。

 

そろそろストックしてた乾パンもお菓子も尽きてきたし…

布団様の恩恵を受けてしまった身では、もはや地面で寝るのは耐えられぬ…。

 

 

とまあ、そんな理由です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえサクラ」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

…あれ。待ってても次の言葉が来ない。

 

 

 

と、俺はピンときた。

 

無駄にそわそわしてるしもじもじしてるしあれしかない。

 

 

 

 

「もしかしてトイr「違う」そうですか」

 

 

 

違うんかい。じゃあ何なんだよう。

 

 

 

首を傾げてると、語はずずいっと手を俺の目の前に出してきた。

 

何かを要求してる…?

 

 

 

「腹減ってんのk「さっき食べたばかりだろこの鈍感が」すみません」

 

 

 

 

何なのまじで。

 

昔から鈍感って言われてきたけど、俺ってそんなに鈍いのか…。

 

 

 

 

「ちゃんと言ってくれねぇと分かんねぇよ」

 

「う"…」

 

 

 

どうやら、はっきり言わない事には自覚があったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く唸っていたものの何やら決心したらしく、語はぼそぼそと言った。

 

 

 

「あの…手を繋いで頂けないでしょうか…」

 

 

 

 

何だそんな事かよ。

 

 

 

 

 

「ほい。これでええかの」

 

 

そう言いつつ語の手を長い袖ごと掴んだら、ぎょっと目を見開かれた。

 

 

「そ、そんなあっさり?!」

 

「お前から言ったんじゃん」

 

「それはそうだけど!」

 

「じゃあ良いのでは」

 

 

 

 

もごもごと何か言いたそうにしたものの諦めたらしく、語はこくりと大人しく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を繋いで一時間程歩くと、デカイ建物が見えてきた。

デパートで間違いなさそうだ。

 

比較的原型残ってる…六階建てと言った所かなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そびえ立つデパートを見上げながら、俺は口を開く。

 

 

「早速入ろうぜ」

 

 

 

んでもって、デパートに足を踏み入れようとした……………………

 

 

 

 

………けど出来なかった。

 

語がまるで銅像みたいにその場で固まっちまったからだ。

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

どうした、と続ける前に、語が口を開く。

 

 

「このデパート…」

 

 

 

 

 

何か話すのかと思いきや、それきり語は黙り込んでしまった。

 

顔の前で手をひらひらさせてみても無反応だ。

 

 

ケモノに食い散らかされた死体がゴロゴロ転がってて気持ち悪いから

俺としてはさっさと中に入ってしまいたいんだけど、こいつは入りたくなさそうだし…困った。

 

 

とはいえこのまま突っ立っててもどうしようも無いし、ちょっと聞いてみるか。

 

 

 

「なあ、どうしたんだよ」

 

「あ…いや…その、何でも無いのね。ごめん」

 

 

俺に心配を掛けまいと思ったのか、語は笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

…怪しい。怪し過ぎる。

 

どう考えても作り笑顔だった。

 

 

でもこいつが言いたくないなら言及するのは良くないよな。

 

ちょっとモヤモヤするけど仕方ない。

 

 

 

 

「なら良いんだけど。じゃあ行くか」

 

「うん」

 

 

 

 

 

デパートに足を踏み入れる寸前、繋いでいる手に力を込められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん…やっぱりというか、案の定というか、中にも死体があるなあ…。

 

辺りに漂う臭いもキツイ。凄く鉄臭い。

ちょっと吐きそうになって、俺は慌てて口元を抑えた。

 

 

 

うう…何処に食べ物あるんだろ。あと寝袋…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当に歩いていると案内板が見つかった。

 

が、残念な事に乾いた血がべったりこびり付いてて解読不能。

 

 

「他の案内板探すしかねえな」

 

 

語に向かってそう言うと、黙って頷かれた。

 

 

 

 

 

 

…………………………心配。

 

デパートに入ってからずっとこんな調子で無言だし。

 

 

 

 

 

「気分悪いのか?」

 

 

こんな場所で何とも思わない方がどうかしてるし、当然と言えば当然だけど。

 

 

訊ねられたら答えるしか無いと思ったのか、語は口を開いた。

 

 

 

「…大丈夫。

 でも、一つだけお願いしたい事がある」

 

 

お願い?何だろ。

 

 

「良いぜ。俺に出来る事なら」

 

 

有難うと小さく微笑んだ後、語は俺の目を見てはっきりと言った。

 

 

 

 

 

「絶対に、サクラの方から手を離さないで欲しい」

 

 

 

 

お願いというかは、懇願みたいだった。

 

 

どうしてそこまで?とか、どうしてそんな事を?とかは言わない。

こいつが求めてるのはそんな言葉じゃないだろう。

 

 

だから俺は頷いた。

 

 

 

 

 

「分かった。絶対離さない」

 

 

 

 

泣きそうな顔をして俯いた語は、もう一度有難うと呟いた。

 

 

手に力を込めたら、ぎゅっと握り返された。

 

 

 

 

 

 

一体どんな想いを味わったのか、俺には到底分からない。

 

 

でも。

 

 

 

 

こいつの力になりたい。

 

 

守りたい。

 

 

 

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して案内板探しをしようという事になった時。

 

「こんにちはー!!」

 

突然、ハキハキとした女の子の声が聴こえたもんだから、

俺と語は二人揃ってビクッと肩を跳ねさせた。

 

 

声の主の少女はそれが面白かったのか可愛らしい笑い声を上げ、軽快な足取りで近付いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

肌色と灰色と茶色を混ぜた様な不思議な色の髪。

 

細くて大きな黄色のリボンが頭の後ろに付いている。

 

 

右が黄色、左が黄緑色のオッドアイで、瞳孔は淡く光っている上にハート型だ。

 

 

所々に黄色いリボンがあしらわれた黒いワンピースとドロワーズを着用している。

 

 

ん?

 

 

丸見えだけどこれって下着なんじゃなかったっけ?

あれ、見えても良い下着なんだっけ?分かんなくなってきた。

 

 

 

…っと、何より気になったのは、手足の関節。

 

だってどう見ても球体関節ってやつだぜ、これ。

 

 

 

 

「初めまして、お二人さん!見ての通り、リヴはロボットなのかしら!」

 

 

 

あ、やっぱりそうなんだ。

 

 

 

「本当の名前はリュボーヴって言うんだけど、長くて呼びにくいだろうからリヴで良いわ!」

 

 

 

リュボーヴ…愛って意味だよな、良い名前じゃん。

 

きっと作者は素敵な人なんだろうな。

 

 

 

「よろしくなのね、リヴ。あたいは…ええっと、語なのね」

 

 

フルネームにしたら俺の時の二の舞になると思ったのかな。

 

まあいいや、俺も名乗ろう。

 

 

「俺はサクラ。よろしくな」

 

 

リヴは嬉しそうににっこりと笑った後、よろしくね!と八重歯を覗かせて笑った。

 

その後、俺と語の手元を興味深そうにまじまじと見て

何故かにやにやしながら口元に手を添えた。

 

 

 

「仲良しなのね、語とサクラって!付き合ってるの?」

 

 

 

「「え?」」

 

 

唖然呆然と言った感じの声が重なる。

言うまでも無く、俺と語の。

 

 

 

「あれ、違うの?男の子と女の子で手を繋いでるから、

 てっきりそうなのかなって思ったんだけど」

 

 

顔を見合わせた後、俺達は首を傾け、横に振り、頷き合った。

 

 

「なーんだぁ。息ぴったりでお似合いなのにー」

 

 

それを見たリヴがつまらなさそうに口を尖らせる中、俺は語に言った。

 

 

「お似合いだってよ、ちんちくりんさん」

 

「何だか照れますな、サクラさん」

 

 

口元を緩ませた語に、俺もつられて笑った。

 

 

 

うん、やっぱこいつは笑ってる方が全然良いや。

 

 

 

「…あ、いっけない!!」

 

 

にまにまと目を細めていたリヴが、急にハッとなってそう言った。

 

どうしたんだろうと思っていると、リヴが来た方向から物音が聴こえた。

リヴが振り向いたのでつられてそっちを見る。

 

 

 

大きな手提げカバンを持った人影が見えた。

 

遠目からでも良く映える、赤い髪をした女性だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置いて行かないでって言ったじゃない!リヴったら!」

 

 

肩で息をしながら俺達の元に辿り着いたのは、すっげぇ美人なお姉さんだった。

 

 

 

真ん中分けされた前髪が大人っぽさを醸し出してる。

黒いレザージャケットと短パンを身に付けていて、所々に巻いてあるベルトがスタイリッシュだ。

 

へそ出てるし胸デカイしスタイル良いし綺麗だしで目のやり場に困った俺は、つい視線を逸らす。

 

 

赤くなってるのに気付かれたのか、語に足をグリグリと踏まれた。

 

 

すみません。

 

でも俺、健全な元男子高校生だから。

 

分かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴが震えながら口を開く。

 

 

「あ、あわわわ…またやっちゃったかしら…ごめんかしらアリア…」

 

 

白いリボンで纏められたカール気味の後ろ髪をゆらしながら、

アリアさんというお名前らしいお姉さんは、微笑んだ。

 

 

「良いのよ、元気なのは良い事だし。

 でも気を付けてよ?一人でいるのは結構心細いんだから」

 

「善処するかしら…」

 

 

アリアさんのワインレッド色の瞳が、

反省反省と頭を掻いているリヴから俺と語に向けられる。

 

 

心臓が跳ねた。

 

 

「は、初めましてッ!!」

 

 

ちょっと上擦った声になったのが恥ずかしい。

でもそれを馬鹿にしたりせず、アリアさんは温かな声で初めましてと返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち話もなんだしって事で、俺と語はアリアさんに連れられて

フードコーナーだったらしい場所へ足を運んだ。

 

 

此処へ来る前に、リヴにあそこで何をしてたの?と訊ねられたので、

食料と寝袋を探していると伝えた所、アリアさんから食料を分けて貰える事になった。

 

 

有難過ぎる。神様仏様アリア様。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらペロペロキャンディが好物らしい語は、

椅子に座って早速貰った一本をモグモグしている。

 

舐めるんじゃなくて噛み砕いてんのが子供っつーかなんつーか。

まあめっちゃご機嫌そうだし、見てて悪い気はしない。

 

 

「つい昨日、此処に辿り着いた所なのよ。暫く休もうと思ってね」

 

 

アリアさんは、ペロキャンに夢中になっている語を見て口元を綻ばせてから続けた。

 

 

「あたし達、実は人探しをしているの」

 

 

語と俺を交互に見て、そこで聞きたいのだけど…と一旦区切り。

 

 

 

「褐色肌で、白髪の…凄く無愛想な男と

 リヴに良く似たロボットを、見かけなかったかしら」

 

 

 

語がちらりと横目で見てくる。

困った様に眉を下げてる所から察するに、知らないんだろう。

 

俺も心辺りは無い。

っていうか、語が初めて会った生存者だし。

 

 

 

…という事で、俺はアリアさんに頭を下げた。

 

 

「せっかく食料頂いたのに、何の役にも立てなくてすみません」

 

 

アリアさんは一瞬悲しそうな顔をした後、すぐに微笑んだ。

 

 

「良いのよ、謝らないで!サクラ君が悪いんじゃないわ」

 

 

 

リヴがしゅんとしているのが目に入り、心が痛む。

よっぽど大事な存在なんだろう。心配で仕方無いに違いない。

 

 

 

「まったくあの男…何処をほっつき歩いて居るのかしら」

 

 

額に手を当てて、アリアさんは深い溜息を吐いた。

口ぶりから考えるに、その男の人とはお知り合いみたい。

 

 

「もしかして彼氏さんですか?」

 

 

俺の質問にきょとんとしたアリアさんは、手を振って笑う。

 

 

「違う違う!ヴォルクって言うんだけどね…あたしの幼馴染なの」

 

 

ほう、成程。

 

 

「同じ孤児院に居てね。小学校に入ってすぐ出て行っちゃったんだけど。

 ま、話をした事はほとんど無いくらいなんだけどね…」

 

 

ほうほう、それでそれで。

 

 

「リヴと、リヴの双子の妹…イリーナちゃんの作者らしいのよ」

 

 

ほええ…凄い偶然だな…。

 

 

こんなに可愛らしい子をあいつが作るって…凄く意外なんだけどね

 

 

 

無愛想な男がリヴみたいな明るい少女を作った…確かになんか面白いかも。

 

イリーナ…平和って意味の名前の子がどんな子なのかまだ分かんないけど、

リヴの双子なんだったら、きっと良い子だろうな。

 

 

 

「…話せる事はこれ位。とにかく、生きてると信じて探してる最中なの」

 

 

リヴの頭を優しく撫でながらそう言ってから、アリアさんは続けた。

 

 

「ところで、サクラ君と語ちゃんには、目的とかある?」

 

 

 

俺達の目的と言ったら…創造の本探し、だよな。

 

 

 

話した所で果たして信じて貰えるんだろうか。

 

でもアリアさんは良い人だし、リヴも良い子だし大丈夫な気もする。

 

 

 

 

そう思っていると、語が口を開いた。

 

 

「うん。本を探しているのね」

 

 

それを聞いたアリアさんは、不思議そうに首を傾げた後、語に訊ねた。

 

 

「本…?どうして?」

 

 

 

その言葉を待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がった語を見て俺は察した。

 

 

 

これはいかん。

 

あの中二病としか思えない話を熱弁したら、完全に頭のおかしい子と思われてしまう。

 

 

 

「おいちんちくりん。落ち着いて話すんだぞ」

 

 

語の耳元でぼそぼそと言うと、語は何度も頷いた。

 

やばい。不安しかない。

 

心配ではあるけど、俺が話すのもあれだし…いいやもう任せとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単に結論を言おう………信じて貰えました。

 

 

 

 

 

 

 

まさか語があんなに説得力のある説明が出来る奴だとは思ってなかった。

俺の時もそうしろよと思ったくらい。

 

語って名前に偽りは無かったんだなって思ったよ…うん…。

 

 

あ、それだけじゃなくて。

 

 

俺と語はリヴとアリアさんと一緒に旅をする事になったんだ。

 

探しものをするなら、人数が多いに超した事は無いというリヴの提案からなんだけど…

突然女性比率が三倍にまで上がって俺の肩身が狭いのは気のせいだろうか。

 

 

…気のせいだよな!

 

 

とりあえず、まだ日が出てるしさくっと探し物を終わらせよう。

 

 

一言声を掛けて、俺はそそくさとこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在俺は、キャンプ用品売り場に行く為…案内板と睨めっこしております。

 

壊れてブツ切りになったエスカレーター付近に、綺麗な状態の案内板があったのです。

とてもラッキー。

 

 

 

 

 

…あ、あった。五階か。此処は一階だし…うわあ。

 

廃墟デパートを五階まで登るとなると、中々骨が折れそう。

下手すれば物理的にも。

 

 

俺は、オーバーオールのポケットにペロキャンを突っ込んだらしく、

そこをポンポンと叩いて満足そうにアホ毛を揺らしている語

(後を付けて来てたので仕方なく一緒に行く事にした)に声を掛けた。

 

 

「やっぱ危ないだろうから、お前は二人と待ってた方が良いんじゃねぇか。

 一人で合流出来るよな?」

 

 

あれ…気遣ったのにむっと頬膨らまされた。

 

 

「意地でも付いて行ってやる」

 

「何故やたらイケボで言ったし」

 

 

早い所済ませたかったけど、仕方ないか。

 

 

 

非常階段だったらしい物を発見した俺達は、早速登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ちて隙間が空いてる部分に遭遇したら、俺が語を持ち上げて登らせたりしつつ…

なんとか五階まで辿り着く。

 

無事で何よりだ。

 

 

 

「ごめん」

 

「何が?」

 

「何がって…手間掛けさせちゃったでしょうに」

 

 

ああ、そんな事。

 

 

「別に気にしてねぇよ。お前軽いし、そんなに疲れてないから」

 

 

すると下を向いていた語は、ぱっと顔を上げた。

 

 

「会った時の事忘れたのか?俺、肩にお前乗せて何十分走ったと思う?」

 

「あー…それもそっか…サクラって凄いね」

 

 

!!!そっかな!!!

 

 

「ふっふっふもっと褒めr「見かけによらずたくましいね一言多いよぉ"!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、キャンプ用品売り場到着~。

 

 

暫く歩き回った結果、俺は目的のブツを見つけた。

 

 

早速手に取る。

 

 

 

…うわぁ~最近の寝袋ってすげぇ~めちゃくちゃコンパクトで軽い~。

筆箱くらいの大きさだし、これなら余裕でカバンに入る!

 

 

なんて便利!最高!ひゅーっ!

 

 

 

鼻歌を歌いながらカバンに詰め込んでいる最中、そういえば語の分もいるなと思った俺は、

 

 

「ちんちくりん。寝袋選んだら俺に渡してくれれば良いからな」

 

 

と声を掛けた。

 

すると俺の方をじーっと見ていた語は、えっ?と予想もして無かったみたいな反応をした。

 

 

「お前寝袋要らないの?」

 

「いや…そりゃ欲しいけど。でもあたいカバン持ってないし良いかなって思ってて…その。

 渡せって事はつまり、持ってくれるって事?」

 

「普通にそういう事だけど。予想してたより小さかったし、お前の分もカバンに入るし」

 

 

そう言うと、語は嬉しそうに笑った。

 

 

「サクラ太っ腹~!」

 

「それくらい普通だって~俺はケチじゃないからな~!」

 

 

ほら好きなの選べよと促すと、はーいと元気よく返事した後、語は寝袋を物色し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的を果たした頃には夕日が昇り始めていたので、此処で夜が明けるまで過ごす事にした。

 

アリアさんとリヴには、戻らなくても心配しないで欲しいって言ってあるから大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

黙って辺りが暗くなるのを待つのは正直退屈なので、

ケモノがいない事を確認してから、俺は語に訊ねた。

 

 

「本探しって宛てあるの?」

 

「…」

 

「ちんちくりんさん?」

 

「…何」

 

「宛ては?」

 

「無いけど」

 

「…」

 

「…」

 

 

 

おい。

 

 

 

「どうする気だったんだよお馬鹿!」

 

「そ、そりゃあもう…世界の果てから果てまでをくまなく探すに決まって…」

 

「あほ!!!」

 

「ごめん」

 

「どじ!!!間抜け!!!」

 

「ごめん」

 

 

 

 

まさかここまでノ―プランとは!!

 

 

 

「今更そんな本ないんじゃねぇかとか、設定云々言うつもりはないけどさ。

 俺だってお前に世界を作り変えて欲しい訳だからさ」

 

「はい」

 

「流石にひでぇだろそれは」

 

「で、でもヒント無しで本を探し出すのが試練だからよ…」

 

 

いやぁ…誰が作った試練なのか知らんけど、ちと過酷過ぎじゃない?

創造主とやらが全員それをクリアしてきたって言うなら素直に尊敬する。

 

 

「んー…まあ、なんつーか…ちょっと見当つけた方が良いんじゃね」

 

「その通りっすね…ちなみに創造の本はパパが自分で何処かに隠した筈なんすよ」

 

 

ふむ。

 

 

「っつー事は、お前の親父さんが隠しそうな場所を考えれば良いって訳だな」

 

 

 

本を隠す場所…。

隠すとなると、カモフラージュ出来そうな場所に越したことは無いか。

 

余りにも単純だけど、本を隠す場所って言ったら此処くらいしか思い浮かばん。

 

 

 

「…図書館」

 

 

「あー、ありそう。パパって本の虫だったし」

 

 

 

後は本屋か?

でも本屋って、図書館と比較すると的を絞れ無さ過ぎる。

 

 

 

…そういえば。

 

 

 

「妄想の本ってさ」

 

「創造の本な」

 

「…想像の本ってさ」

 

「字が違う」

 

「何故そんな事が分かった」

 

 

 

エスパーかこいつは。

 

 

 

「そうぞう、ってのは作る方なのね」

 

「ほほー、そっちなのね。てっきりイマジネーションの方かと思ったのね」

 

「どっちが喋ってるか分かりにくいから真似するのやめてくれないかなぁ??」

 

 

目が怖い目が怖い。そしてさらっとメタい事言うのはお止しなさい。

 

 

「おっけーですごめんなさーい。

 で、聞きたいんだけど、創造の本ってさ。

 お前以外の誰かが見つけたら、悪用とかできんの?」

 

「それはない。封印されてるし、その封印を解けるのは次期創造主だけだから」

 

「…じゃあ、そこまで急ぎの用事って訳でもないか」

 

 

 

生き残った人間が何か仕出かす心配はないって事だからな。

 

 

と思ったら、語は首を振った。

 

 

「そうでもないのね。一応時間制限はあるっていうか」

 

「時間制限?」

  

「世界が終わってから一年。それがタイムリミットなのね」

 

「まじかよ」

 

「まじ。タイムリミットが来たら、創造の本は消失するらしいよ。

 創造の本は世界の礎でもあるからだって」

 

「俺達の世界が文字通り消えるって事か」

 

 

何だそれ怖い。

 

 

「世界が無くなった後どうなるのかは知らない。

 また気まぐれに神様が作るのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」

  

「…」

 

 

 

なんか神様とやらに踊らされてる気がしてちょっとむかつく。

 

…けど、だからと言ってどうしようもない。

 

 

 

「とにかく、一年以内に見つければ良いんだな」

 

「うん。苦労掛けるけど、改めて協力お願いするのね」

 

 

うんうんと頷いたら、語は嬉しそうにお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話が終わった頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。

 

遠くの方でケモノが蠢いてるのが見えるし、黙るタイミングとしては丁度良い。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

胡坐を掻きながら何を考えるでもなくぼーっとしていると、俺の手に何かが触れた。

 

 

 

手……

 

 

…うん、これは語の手だ。

 

 

 

怖いのかな、やっぱ。

ちょっとでも音出したらケモノがすっ飛んでくるかも知れないしな。

 

まあそうなったらなったで語を担いで逃げるまでだけど。

 

 

 

とは言え面倒事は避けたいから、声を出す訳にいかないので、

俺は黙って語の手を取った。

 

 

 

小さく微かに聞こえた有難うという声は、気のせいでは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

繋いだ手は温かかった。

 

空気がひんやりしているから尚更そう思うのかも。

 

 

 

 

 

…そういえば、誰かと手を繋ぐなんて何年振りだったっけ。全然覚えてないや。