十片目:Relieve


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヴォルク?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ろう、と呼び掛けても返事が無い。

 

 

 

 

 

 

どうしたんだろう。

 

 

あんな話聴かされて、怒ってるのかな。

 

 

 

 

やっぱり言わない方が良かったんだろうか。

 

変に脱線してうっかりネガティブな事も言っちゃったし。

 

 

そりゃ怒るよね…知り合って間もないのに知るかボケって感じだよね…。

なんつーか…恥ずかし過ぎて消えて無くなりたい…。

 

 

 

………それはさておき、ずっと此処にいる訳にはいかないし。

 

一言も発さないどころか微動だにすらしないヴォルクへの声掛けを止める訳にはいかないのです。

 

 

 

「ヴォルクってばー。足痺れて立てないとかそんな感じ?」

 

 

「……」

 

 

「おーい」

 

 

 

「ごめ…な…さ…」

 

 

 

………ん?

 

 

 

もしかして、ごめんなさい、って言った?

 

というか、普段と明らかに違う余裕0な声だったんだけど。

 

 

 

 

 

 

心配になって、名前を呼びながらしゃがみ、肩に手を置く。

 

 

 

すると、彼は俺の手を掴んできた。

 

 

 

 

凄い力で。

 

 

 

「い"……ッ?!」

 

 

 

 

痛いめっちゃ痛い何だこの全身全霊の力使ってますみたいな強さ!!

まじおこって事?!激おこなの?!

 

 

…でもさっき謝ってきたよな。怒ってるのに謝るなんておかしいよな。

 

 

 

 

 

あ。

 

 

 

手、震えてる。

 

 

 

 

 

「ヴォルク、俺全然怒ってないよ?

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

………………………………………??

 

 

 

 

……あっれー無反応。Why。何故だ。

 

 

 

 

一方的に言葉投げられて投げ返したらシカトされてこりゃ一体どうすりゃ良いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在進行形で続く手の痛みに耐えながら(正直もう痛みに慣れてきた感が否めない)、

頭を悩ませていると。

 

 

 

ヴォルクが口を開いた。

 

 

 

「さ、くら」

 

 

 

「はい!何でしょう!」

 

 

 

「薬…を…」

 

 

 

薬?

 

 

 

「カバン…中……早く…」

 

 

「わ、分かった!」

 

 

 

よく分かんないけどとにかく、ヴォルクのカバンの中にある薬が必要なんだな?!

 

 

 

俺が返事した後、彼はぐったりと身を預けてきて。

それだけでなく、両手を背中に回してぎゅっと抱き締めてきた。

 

 

 

 

 

…行動から言動から何から何まで異常事態だ。急がなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、手探りでヴォルクのカバンを開く。

 

其処から懐中電灯を取り出して、中を照らした。

 

 

 

 

ええっと、ええっと…薬…薬……

 

 

 

……これかな?!

 

 

 

 

俺の胸に顔をうずめてる彼の背中をトントンと叩き、

 

「薬渡すから、手出して」

 

と呼び掛ける。

 

 

でも、ヴォルクはフルフルと首を横に振った。

 

それどころか、抱き締める力を強める始末だ。

 

 

 

藁にも縋る様子というか、絶対離れるもんかって感じというか。 

 

俺が居なくなったら壊れてしまうんじゃないかって錯覚してしまう程の危うさがあった。

 

 

 

…このままじゃ駄目だ。

 

薬でどうにかなるなら、何としてでも飲ませなきゃ。

 

 

ヴォルクが自力で何も出来ない今、俺が助けてやらないと。 

 

 

 

 

 

 

 

 

…明かりをつけっぱなしにして地面に置いた懐中電灯のおかげで、辺りの様子が分かる。

 

ヴォルクがパニックにならない様、焦らず、手際良く準備を進める。

 

 

 

薬のついでに出しておいた水を、ペットボトルのキャップを外していつでも飲める状態にし…

 

 

「ヴォルク、こっち向いて」

 

 

恐る恐る顔を上げた彼に

 

 

「口開けて」

 

 

カプセル型の薬を含ませ、すかさず水を差し出し

 

 

「はい、水。もう良いって時に首振ってな」

 

 

サインを素早く取り決め、ペットボトルを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬を飲み終わったヴォルクは、微動だにせず、俺の胴にしがみつく体勢を保って

 

 

 

…………………………

 

 

 

寝た。

 

 

 

寝ちゃったよこの人ーーーー!!

俺置いて単身スヤスヤ夢の中行っちゃったよこの人ーーーー!!

 

 

……ま、まあ、あれだけ苦しそうにしてたんだし…仕方ないよな。疲れただろうし。

 

でもヴォルクが目覚めるまでずっとこのままホールド状態って中々に厳しいのですが。

 

 

 

ぐええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても。

 

 

薬必要になるって事は、ヴォルクって何か持病でもあったのかな。

発作起きるみたいなやつ。

 

いや…何かに怯えてるみたいだったしそりゃないか。

 

 

…………あ。

 

そういえばイリーナと出会った時、あの子精神安定剤探してたな。

 

何で今ヴォルクがそれを持ってるのかは……

…薬の山の所で何やらモソモソしてた時に、自分で精神安定剤作ったからとか?

 

 

 

憶測でしかないけど、何か色々と繋がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

………そっか。

 

 

精神やられる程の事があったんだ。

 

 

それこそ、薬使わなきゃやってられないレベルの。

 

 

 

 

 

 

緩やかに上下してる肩をぼんやりと眺め、

うつ伏せで人に抱き着いた形で寝るのって寝苦しくないのかな

…とかどうでも良い事を考えつつ。

 

 

そっと、彼の頭を撫でる。

 

 

 

意図があった訳でも、裏がある訳でもない。

 

何故か、いつの間にかそうしてた。

 

 

 

 

鼻を鳴らしながら身動ぎするその姿は、まるで小さな子供の様だった。