五片目:Together


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デパートの入り口付近に辿り着くと、イリーナがヴォルクの手を握って座り込んで居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とリヴに気付いたらしい彼女は、こっちを見てくしゃりと顔を歪める。

 

 

まるで今にも泣きそうだ。

 

だけど、彼女の目からは何も流れない。

 

 

リヴやイリーナを見ているとたまに忘れそうになるけど、二人共ロボットだからな。

 

 

 

俺は大丈夫だと言う様に、イリーナの頭に手を置いた。

 

その後、ヴォルクの近くに腰を下ろす。

 

 

 

うっわ凄い汗…マラソンでもしたのかってくらいにびっしょり。

でも、発熱はしてない。むしろ青冷めてる。

 

リヴの言った通りうなされてるっぽいし…

自然と起きるまで放っておくのは、マズい気がする。

 

 

 

よし、何としても起こしてみせるぞ。

 

 

 

と、その前に。

 

 

 

「リヴ、イリーナ。水持って来てくれないか」

 

 

これだけ汗掻いてたら水分不足になっちまうからな。

 

二人はそれを察してくれたのか頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠ざかっていく小さな背中を見送った後、

俺はヴォルクに向き直ってペチペチと彼の頬を叩いた。

 

 

 

…うん、予想はしてたけどやっぱ起きない。

 

 

 

 

じゃあ次。

 

両頬を掴んで左右に引っ張る作戦!

 

…おおー、伸びる伸びる。だが起きない。

 

 

次!

 

強制的に瞼を開ける作戦!!

 

…ぎゃあ怖い白目向いてる。当たり前だけど。

 

 

 

 

…いやいや、ふざけてる場合じゃない。真面目にしよう。

ちょっとした仕返しのつもりだったけど流石に反省した。

 

そろそろ手を放してやらないとヴォルクがドライアイになっちゃう。

 

と思った瞬間、赤い瞳が俺を捉えた。

 

 

 

思わず肩が跳ね上がる。

 

 

 

「ボ、ボクナニモシテナイヨ」

 

 

 

手をパッと放して横目で様子を窺っていると、

怪訝そうに俺を睨んでいたヴォルクは、

やがてもそもそと起き上がって不快そうにマフラーを外し、白衣を脱いだ。

 

 

むむ…中々良い体つきしてやがる。同じ男としては何となく悔しい。

俺って、なんつーか…華奢だし…。

 

 

 

一人でしょげていると、ヴォルクがわざとらしい溜息を吐いて口を開いた。

 

「耳障りな笑い声で目が覚めた」

 

第一声からdisられたけど、さっきの自分の行いを思うと文句は言えませんでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想以上にあっさりと(俺の笑い声が耳障りだったせいで)起きてしまわれたので、

リヴとイリーナはまだ戻って来ない。

 

 

「…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…」

 

 

 

……………………………沈黙が辛い!!!

 

 

 

何か話すか…でも何話せば良いかなあ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

悩んだ挙句、俺の口から飛び出たのは

小学生かって自分で突っ込みたくなる程に低レベルな質問だった。

 

 

「ヴォ、ヴォルクの好きな食べ物って何?」

 

 

案の定何言ってんだこいつみたいな目で見られた。

 

 

 

でも、無視されるかと思いきや、ヴォルクは答えてくれた。

 

 

「特に無い」

 

 

「じゃあ嫌いな食べ物…」

 

「…さあ」

 

「そ、そっかぁ」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

 

 

 

会話、終了~~~~~~~~~っ☆彡

 

 

 

 

内心頭を抱えていると。

 

 

「そういうお前はどうなんだ」

 

 

まさかのまさか、ヴォルクの方から質問して来た。

 

 

 

こ、これは好都合だ!乗るしかない!

やっぱこいつも無言空間が嫌だったんだな!うんうん!

 

 

 

「えーっと、好きな食べ物は…そうだなぁ。ハンバーグとかーカレーとかー…」

 

「子供か」

 

「全世界のハンバーグとカレー好きの高校生に謝れ」

 

「…悪かった。で、嫌いな食べ物は?」

 

「んー。あんまりないけど、あえて言うならピーマンかな」

 

「子供か」

 

「全世界のピーマン嫌いの高校生に謝れ」

 

「すまん」

 

「気持ちが篭って無い!やり直し!」

 

「面倒臭い」

 

「面倒臭いって言葉の方が圧倒的にすまんよりも字数多いけど?!」

 

「細かい事を気にしてると将来禿げるぞ」

 

「余計なお世話だよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだ盛り上がっていると、リヴとイリーナが戻って来た。

 

 

「はかせ!目が覚めたのね!」

 

 

心底嬉しそうな笑顔で飛んで来たリヴを受け止めたヴォルクは、照れ臭そうに少し口元を緩めた。

 

 

「有難うございます、サクラさん」

 

 

ホッとした様な声で俺の隣に並んだイリーナがそう言った。

ヴォルクに馬乗りになって無理やり水を飲ませているリヴもこっちを見て言う。

 

 

「有難うかしら!!」

 

 

そんな二人にどう致しましてと返したら、嬉しそうに目を細められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴがヴォルクに向き直った後、

イリーナは俺の顔を覗き込みながら首を傾げて、心底不思議そうに訊ねて来た。

 

 

「一体どうやって起こしたのですか?」

 

 

 

…………………う、うわあああ遊んでる最中にたまたま起きたなんて言えねええええ~~~~!!!

あ…でも、ヴォルクは俺の笑い声で起きたって言ってたな。

 

 

 

「笑っただけだよ」

 

 

 

一応嘘ではないのでそう答えたら、イリーナはますます目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りの間にも、余程心配だったのか暴走気味のリヴによる強制水分補給が

ミネラルウォーター三本目に差し掛かっていたので、俺は流石に止めに入る。

 

 

「落ち着けリヴ。このままだと溺死するから」

 

 

ハッとなったリヴは、急いでペットボトルをヴォルクの口からズボッと抜いた。

重力に則って流れ落ちる水が、彼の顔に直撃する。

 

 

貴重な水が…ああ勿体ねえ…。

 

 

「あわわわわ大丈夫かしらはかせ?!」

 

 

ペットボトルをポイと投げ捨てて自分の服で

ヴォルクの顔をゴシゴシと拭うリヴ。

そんな彼女を制止し、ヴォルクは死んだ魚の様な目で起き上がった。

 

 

口元を抑えている所から察するに、相当胃の中が水で満たされてるに違いない。

 

ご愁傷様過ぎる。

 

 

「いつもこんな感じなのか」

 

「はいなのです」

 

 

そう答えたイリーナと共に、俺は苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、そろそろ戻るよ」

 

 

ヴォルクは目覚めたし、二人も戻って来た事だし。

 

いつまでもアリアさんに語を任せっきりにする訳にはいかない。

 

 

 

踵を返そうとすると、リヴに

 

 

「あ、待ってサクラ!これ持って行って!」

 

 

そう呼び止められ。

 

何だろうと思ってリヴの指さした方を見ると、二人が運んで来たらしい山積みの食料があった。

 

 

「はかせ、サクラの食料全部食べちゃったみたいだし…お詫びにと思って持って来たのよ。

 そのせいでちょっと戻って来るのに時間が掛かっちゃったの…ごめんね。

 好きなだけ持って行ってくれて構わないわ」

 

 

わお!それはとても助かる!

 

 

「有難うな。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は食料を、入るギリギリまでカバンに詰め込んだ。

 

余った分は、持てる分だけ持って行って語とアリアさんと分けようと思う。

 

 

ヴォルクの代わりに彼のカバンに水やらを収納しているリヴを見て、

まるでヴォルクの母親だなと思いつつ立ち上がる。

 

すると彼女は、俺が立ち去ろうとしている事を察したのか声を掛けて来た

 

 

「サクラ、本当有難うね。はかせと話をしてからまた伺うわ」

 

 

「ん、分かった」

 

 

返事をしてから持ち運んでいく用の食料に手を伸ばすと、

リヴがそわそわしている事に気が付いた。

 

 

「どうかしたのか?」

 

 

「あ…語、大丈夫かなって思って…」

 

 

 

そういう事か。

 

うーん…大丈夫とは言い難いし、嘘吐いてもあれだし…本当の事を教えよう。

 

 

 

「アリアさんは、今晩が山場だって言ってた。全快まではまだ時間が掛かると思う」

 

「そう…」

 

 

心配そうに俯いた後、リヴはパッと顔を上げて言った。

 

 

「…やっぱり一緒に付いて行っても良いかしら?語の事で何か手伝いたいの」

 

 

 

…良い友達持てて、あいつ幸せもんだなあ。

 

何故か自分の事の様に嬉しい。

 

 

 

断る理由も無いし、俺は頷いた。

 

 

 

「勿論…ってか、語もアリアさんもリヴが来てくれたら絶対喜ぶし、むしろお願いしたい位だよ」

 

「そ、そうかしら?!えへへ、じゃあ付いて行くわね!」

 

 

リヴは俺の隣に軽快な足取りで近付くと、食料を抱え込んだ。

運ぶのを手伝ってくれるらしい。

 

 

「お、サンキュ」

 

「いいえいいえ~どうって事無いかしら!」

 

「そっかそっか。じゃあ行くか」

 

「はーいかしら~!ちょっと行って来るわね二人共!」

 

 

リヴが元気よくヴォルクとイリーナにそう声を掛けると、

ヴォルクがトントン拍子で進む話に付いていけないみたいな顔をして、

片手を肩の辺りまで挙げて言った。

 

 

 

「いや待て。話が全く見えないんだが」

 

 

……………………………………………………

 

そういえば全然こっちの事情とか、リヴとの関係とか話してないんだっけ。

 

 

 

俺はリヴと顔を見合わせた。そして頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人でヴォルクと、ついでにイリーナにも説明する。

 

何を説明したのかと言うと、簡単にまとめたらこんな感じ。

 

 

1、 俺と語はデパートでリヴとアリアさんに出会った

 

2、 何だかんだで一緒に旅をする事になった

 

3、 その矢先で語が熱を出してしまった

 

 

ちなみにこの際だし俺と語の目的も話した。

リヴは、アリアさんに自分が助けられた事も話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程。それで、リヴは看病をしに行きたいと」

 

「ええ。あ、もしかしてもう出発する予定だったかしら…?」

 

 

リヴが恐る恐るヴォルクに訊ねると、彼は頷いた。

雷に撃たれた様にショックを受けている彼女に、まあ待てとヴォルクは続ける。

 

 

「看病したいと思う程に、大切に想っているんだよな」

 

 

あら意外。

優し気な声色だ。

 

 

リヴがこくこくと頷くと、そうか。と諦めた様に呆れた様に小さく笑った。

 

 

「はかせにしたい事があるっていうのは、イリーナから聞いているわ。

 それがとても大事な事だって言うのも知ってる。

 でも…それでも、リヴは語の力になりたいの」

 

 

ヴォルクはリヴの訴えを真摯に受け止めているらしかった。

真剣な顔をしてる。

 

 

こういう所は、流石製作者…親、って感じだな。

 

普段の態度からは考えられないけど。

 

 

 

黙って見つめ合う二人の間で一体何のやり取りが行われてるのか、

蚊帳の外に居る俺には分からない。

 

そんな中、イリーナがふわっと柔らかな笑顔を湛えて言った。

 

 

「私はリヴに賛成なのです。

 …付け加えると、サクラさん達に同行したいと思っています。

 サクラさんには沢山お世話になりましたし、お礼をしたいのです」

 

 

イリーナの言葉を聞いたヴォルクは、口元に手を当てて黙り込む。

 

 

 

 

…やがて。

 

 

 

 

納得した様に頷いて、俺に訊ねて来た。

 

 

 

 

「…二人増えても問題ないか

 

 

 

えっとえっと、二人…って、イリーナとヴォルクの事だよな?

 

 

「全然問題ないけども、それで本当n「分かった。なら、同行するとしよう」

 

 

さ、遮られたー?!?!

案外ノリノリじゃないですかヴォルクさん?!

 

 

…あ、リヴとイリーナが抱き合って喜んでる。

なんとも微笑ましい光景だ。目の保養、目の保養。

 

と内心合掌しつつ眺めていると、

リヴが放り出した食料を拾い上げたヴォルクが、俺の隣に並んで来た。

 

 

「早速で悪いが、俺の目的を最優先にしてくれないか。

 研究所に戻ってやらないといけない事がある」

 

 

や、やけに深刻そうな雰囲気だな…。

一体何だっていうんだろ。

 

 

「目的って?」

 

 

首を傾げると、衝撃的な答えが返って来た。

 

 

「リヴとイリーナが今着ているのは、メンテナンス用の…所謂下着だからだ」

 

 

 

 

………………………………。

 

 

なーんてこった☆彡

 

 

リヴがドロワーズ履いてるから何となく予想はしてたけど、やっぱそうなんかーい☆彡

自覚したせいで二人を直視出来なくなってしまったではないかー☆彡

 

 

 

「それは一大事だな。研究所目指して頑張ろうぜ」

 

「話が分かるな」

 

「いたいけな少女の純潔を守るのは紳士の務めでございますからな」

 

「お前、キモい」

 

ズバリ言うのやめて」

 

 

言った後でこれはないなって自分でも思ったんだから傷えぐらないで!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フードコーナーへ向かう道中、リヴは俺にこんな事を言った。

 

 

「はかせと友達になってくれて、有難うね!」

 

 

 

あれ、友達になんていつなったっけ。

 

いや、これだけ話してりゃもう友達か。

 

そんなもんだよな。

 

 

 

「こんなにはかせと仲良くしてくれる人、初めて見たかしら~…」

 

 

じーんと感動に浸っているらしい彼女に、ヴォルクがむっとしながら抗議した。

 

 

「仲良くない。全ッ然仲良くない」

 

 

するとリヴは彼の腰を指でつんつんとつつきながら笑う。

 

 

「照れちゃってこのこの~~!!

 戻ってくる最中に、はかせが楽しそうにサクラとお話してるの見たんだから~!」

 

「違ッ…あれは…」

 

「うんうん、言わなくても分かってるわよ~!」

 

「…」

 

 

 

黙り込んだヴォルクの顔を覗き込むと、顔を逸らされた。

 

面白かったので彼の視界に入る様に移動すると、また逸らされた。

 

 

 

結局、繰り返す内に良い加減にしろって睨まれたので止めました。ははは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリアさーん、戻りました~」

 

 

俺が声を掛けると、彼女が振り向いた。

 

 

「お疲れ様、サクラく………」

 

 

あ、びっくりした様に目を見開いてる。

リヴやイリーナ…それからヴォルクが居る事に、気付いたからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…という訳なんです」

 

 

状況やら経緯やらを説明すると、アリアさんは、成程ね。と微笑んだ。

実は起きていたらしい語が、リヴに頭を撫でられながら言う。

 

 

「協力してくれる人が増えて、凄く嬉しいのね」

 

 

良かったなと笑い掛けると、うんと笑い返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほのぼのとした雰囲気の中。

 

フードコーナーに着いてすぐ、俺が出しっぱなしにしてた薬の山に向かっていたヴォルクが、

スタスタと語に近付いて、おい。と声を掛けた。

 

その手には、薬のカプセルらしき物。

 

 

「これを飲め。すぐに良くなる」

 

 

ヴォルクから受け取った薬を首を傾げながら受け取った語が、俺を不安そうに見てきた。

そんな視線を無視出来ず、俺はヴォルクに訊ねる。

 

 

「それ、大丈夫なのか」

 

 

う。心外だと言いたげに眉を顰められてしまった。

 

でもその、一応…一応ね、聞いておかないと…ほら…うん…。

現に語はヴォルクと初対面な訳だし、友達のリヴの作者とはいえ警戒心はやっぱあると思うの。

 

 

「副作用の心配なら要らない。俺はそんなヘマはしない」

 

「ヘマって………まさか、薬を分解して調合し直したって事?!」

 

 

目を丸くしながらの語の発言に、ヴォルクは頷いた。

 

と、リヴやイリーナが彼の後ろで、何やら自慢気に頬を緩めながら口を開く。

 

 

「はかせは凄いのよ、何でも作れちゃうの!

 研究所に入ってから、はかせが実験に失敗した事なんて一度も無いわ!」

 

「その通りなのです。

 薬の安全性は私達が保証しますので、気にせず服用して頂ければと」

 

 

 

…確かに、リヴやイリーナみたいな高性能ロボット作るくらいだもんね。

薬弄るなんてお茶の子さいさいな気がしてきた。

 

 

 

「そこまで凄いんだ………うん、分かった。

 ダラダラと此処に居るのは避けたいし、足引っ張りたくないし…有難く頂戴するのね」

 

 

 

俺と同じ考えを抱いたらしく、語はそう言ってから、薬を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

 

 

 

 

語の熱は見事に収まった。

 

 

「わーすっげええええええ!!!!

 なんじゃこらやっべえのね体軽いのねー!!

 今なら何でも出来る気がするーーーー!!!」

 

 

ご覧のとおり元気百倍です。

 

良かった良かった、一安心。

 

 

 

語と一緒にぴょんぴょん飛び跳ねているリヴが、流石はかせかしらー!と笑っている中、 

俺は、此方に背中を向けて胡坐を掻いているヴォルクに近付いた。

 

 

「有難うなヴォルク。お陰様で助かったよ

 

 

声を掛けると、何やら調合していたらしく彼は肩を跳ねさせた。

 

 

「馬鹿野郎、急に話し掛けるな。手元が狂ったらどうしてくれる」

 

「え、あ、ごめん」

 

 

謝罪してから、何でまた薬を作ってるんだろうという疑問が沸いた。

 

それを察したのかヴォルクが口を開く。

 

 

「また何かあった場合に備えて、数個用意しておこうと思った。それだけだ」

 

「気が利くのう」

 

「なんだその口調。じじいかお前はまあそれはどうでもいい。

 分かったら邪魔をするな

 

「はぁーい、分かりましたー…って、俺、まだピチピチだからね…??」

 

 

抗議すると片手でしっしっと追い払う様な仕草をされた。ひ、ひどい…。

 

でもまあ邪魔するのは悪いし、俺は大人しく語達の所に戻る。

 

 

 

…そろそろ辺りが暗くなってきた。

あと数時間もすればケモノがウヨウヨしだすだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分はしゃいで満足したらしい語が、こほんと咳払いを一つした後提案した。

 

 

「明日の朝、早速出発って事で良い?まずはヴォルクの研究所に向かおう。

 ……そういえば研究所って、此処から大分遠かったりする?」

 

 

訊ねられたヴォルクが、顎に手を添えて考え込む。

 

 

「そうだな。徒歩だとかなり時間が掛かると思う」

 

「んー…車でもあれば良いんだけどね」

 

 

腕を組んだ語が呻ると、アリアさんが言った。

 

 

「車なら、デパートの近くにあたしのがあるわ。ガソリンが切れちゃってるけど…でも」

 

言い掛けて、ヴォルクの肩をポンと叩いて明るく笑う。

 

「ヴォルクなら何とか出来るわよね!」

 

 

「無茶振りするな」

 

 

呆れた様にジト目になったヴォルクだったが、少しの間の後ドヤ顔になった。

 

 

………………いや。車の改造はした事が無いが、俺ならどうにでも出来るだろう」

 

 

さっすがはかせー!と全員で大合唱すると、

ヴォルクは機嫌良さそうに瞼を閉じて鼻息を一つ吐いた。

 

 

 

…こいつ絶対に乗せられやすいタイプだなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今後の方針が決まった所で、今日はもう寝る事になった。

リヴとイリーナが見張りをしてくれるらしいから、夜に睡眠を取っても大丈夫なのです。

 

 

ちゃんと夜に寝れるって、幸せな事!

 

 

寝袋に収まりながら、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。 

 

 

 

 

 

「よーし、出発なのね!」

 

 

「おーっ!!」

 

「おー…!」

 

「お~!」

 

 

元気一杯に両腕を振り上げたリヴと、

少し恥ずかしそうに握った手を目の高さまで上げたイリーナ、

楽しそうに片腕を挙げるアリアさんの掛け声が、語の号令に続く。

 

俺も元気よく便乗しておいた。

 

 

 

 

 

…が、しかし。

 

ヴォルクの声だけ聴こえなかった。

 

 

 

 

この時。

 

 

彼を除く5人の心が、一つになった。

 

 

 

 

皆で、ヴォルクをガン見し始めたのである。

 

 

 

 

「な、何だお前ら。何故俺を見る…」

 

「…」×5

 

「…おい…」

 

「……」×5 

 

「……」

 

「………」×5

 

 

 

 

 

やがて。

 

 

5人分の視線と無言の圧力に耐えかねたのか、

遂にヴォルクは蚊の鳴く様な声で、おー…と言った。

 

 

 

俺と語とリヴが良くやったはかせ!!と拍手すると、

彼は俯いて肩を震わせながら声を絞り出した。

 

 

 

「この馬鹿共…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入った時は二人、出る時は六人。

 

それだけなのに何だか嬉しい。

 

 

 

 

 

賑やかになりそうな今後の旅に、俺は胸を躍らせるのだった。