十四片目:Awareness


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めちゃくちゃ唐突だけど、今俺は大浴場に来ております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は、合流した矢先に語が放った

『あたいら、臭くね』

という一言。

 

 

この発言にアリアさんが物凄く同意してー。

 

語とアリアさんのお風呂に入りたいコールが起こりー。

 

リヴやイリーナは当然の如く女性側の味方に付きー。

 

残された俺とヴォルに反論する余地なんて無かったし、

そもそも風呂嫌いって訳でも無いし、大人しく従いー。

 

 

そんなこんなでスパを見つけて、現在に至る訳だ。

 

温泉ってのは世界滅んでも沸くんだな。

自然の意地を感じるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さーて汚れ落とすかー!と、久々の風呂に心躍らせつつ、

元気よく一歩踏み出そうとした…その瞬間。

 

ヴォルが何やら慌てた様子で。

 

 

「…サ、サクラ…この家の持ち主は、こんなに大きな風呂を使って居たんだな…。

 しかし、いくらなんでもシャワーの数が多過ぎやしないか?

 何人家族だったんだろう…それとも一人でこんなに…?

 金持ちの考える事はよく分からない…馬鹿なんだろうか…面白い試みではあるが…」

 

 

俺は思わず彼を見た。

 

そしたら、ワクワクしてるというか好奇心に満ちてるというか…

…簡単に言うと、目が輝いてた。

 

ジョークじゃなくて、マジで言ってるんだこれ。

 

 

 

かくいう俺も母さんやじーちゃんと初めて銭湯行った時、

家のより遥かにだだっ広い風呂見てテンション上がったけど…

 

…スパを家だと勘違いするって相当では。

 

 

箱入り娘ならぬ箱入り博士だったのかしら。

 

 

 

「す、凄い…あっちに大きな鍋があるぞサクラ!

 そういえば此処はスパと呼ばれているんだよな?スパゲティをあれで茹でるのか?」

 

 

 

なんだろう、この子供と居る時みたいな気分。

微笑ましい。

 

まあ、この子供俺より年上だし背高いけど。

 

 

 

「しかし風呂場に鍋があるのはおかしい様な…

 いや、そうでなければスパという名称に納得がいかない…

 …あ、もしかして家主の名前がスパなんだろうか…」

 

 

想像力がおかしな方向にほとばしり始めたーーー!?

 

水差す様で悪いけど、そろそろ本当の事を教えてあげねば。

ずっと入り口に突っ立ってる訳にもいかないし。

 

 

 

腰の辺りをつんつんしながら俺は言う。

 

 

「ヴォル、答え合わせしてもいい?」

 

 

すると彼はハッとなり。

 

 

「ご…ごめん、少し暴走してた…頼む」

 

少し????うん????

少しだったの???あれが???

 

………。

 

そういう事にしといてあげよう。

 

 

スパは、温泉に入れる施設の事を言うんだ。

 大勢が一緒に風呂に入れるからシャワーが沢山あるし、

 浴槽も普通の家庭に比べて大きいんだよ」

 

 

納得した様にヴォルは頷く。

 

 

「そうなのか…世の中には、こういう温泉もあるんだな。

 てっきり大きな岩に囲まれた風呂を温泉というのだとばかり…。

 教えてくれて、有難う」

 

「いやいや、どう致しまして」

 

 

間違えたのが恥ずかしかったのか頬を掻いた後、彼は視線を落として残念そうに言った。

 

 

「あれで沢山のスパゲティを茹でられたら、きっと楽しいだろうに…」

 

 

思わず俺はブッと噴き出す。

 

 

 

スパゲティがこだわりポイントだったのかな。

 

可愛い。

 

 

 

「確かに、ただ浸かるよりもそっちの方が面白いかもね」

 

 

「だろう!

 ……でも、あの中に入ってるのは温泉だから、味の保証は出来ないな」

 

 

「そっか味の問題があったか…温泉の場合だとどうなるんだろ。

 塩茹でならぬ硫黄茹で…?」

 

 

 

自分で言っといてあれだけど、響きからしてとんでもなく不味そうやな。

母さんのゲテモノ料理じゃあるまいし…。

 

 

 

「そ、それはちょっと嫌だな…」

 

「どことなく体には良さそうだけど、やっぱ普通が一番だねえ…」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパについてが一件落着し、ようやく俺達はタイルの上を歩き出す。

 

 

 

世界滅亡の騒ぎで転がったらしいリンスインシャンプーのボトルを拾い上げ、

浴槽に近い洗い場を選び。

 

椅子に座って、若干ヒビが入った鏡に映る自分の顔を見た。

 

 

 

いっやー!相変わらずイケメンだなー!

あははは!あはは…あは……

 

…はあ虚しい〜〜〜〜!!

 

一体いつになったら男らしい顔になるのかね。

 

まあまだ成長期だし、今後に期待…

…いや、今後も何も一年以内に死ぬんだっけ。

 

さらに虚しくなってきたぜちきしょー。

 

 

 

鏡から目を逸らし、隣に座っているヴォルを眺める。

 

頭洗う為に、すぐ近くにある風呂から桶でお湯をすくって、

髪を濡らしてる所だった。


 

 

 

「…ヴォルって、かなり髪長いよね」

 

 

 

今はリボン解いてるからか、ますますそう思う。

 

背丈くらいあるんじゃないかしら。

 

 

 

急に話掛けたからか、彼は少したじろいだ。

 

 

「へ、変かな」

 

 

「いやいや全然。似合ってる」

 

 

 

短くても似合うんだろうけどね。

 

美人は何してもさまになるし。

 

 

 

「そんだけ長いと、手入れとか大変じゃない?」

 

 

「あ、いや…そういうのはイリーナがやってくれるし、特に困った事は…」

 

 

「流石女子力高い!リヴは?」

 

 

う"………あいつは…結構…大雑把だから…」

 

 

 

声があからさまにげんなりしてる。

どうやら色々あったっぽい。

 

でも、呆れた様な表情の中に、リヴへの愛おしさみたいなものを感じた。

そんな所も好きなんだけど…とか言いたいんだろうなーって気がする。

 

 

 

「確かにあの子男前だもんねえ…可愛い所も勿論あるけど」

 

 

「そう、そんな感じ。

 …サクラは、あいつをよく分かってくれてるんだな」

 

 

ふふっ、とヴォルが声を漏らす。

 

 

作者自らに認めて貰えたのが嬉しくて、つい口元が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

げっ。

 

 

いやね、今、頭洗ってるんだけどね。

大分長い間風呂入ってなかったせいか、全然泡立たないんですよ。

 

ううっ…相当汚かったんだ…ショック…野生の漢も悪くはないけど…。

 

 

 

……。

 

 

 

こうなったらとことん綺麗にしてやるァ"!!

 

 

 

 

 

 

 

…結果。

 

 

洗って流して洗って流して洗って流して頑張ったら、凄くさっぱりしました。

リンスインシャンプーだったからちょっとゴワゴワするけど、細かい事は気にしない。

 

ちゃんと体も洗ったし、まさに(物理的な意味で)ピッカピカの(元高校)一年生っ!

 

 

 

 

ヴォルもどうやら洗い終わったらしく、長い髪を頭の上でまとめてる。

所謂お団子ヘアーってやつだ。

 

…ほんと何しても似合うなこの人。

 

 

 

「風呂浸かる?」

 

 

 

じーっと浴槽を眺めてた彼に声を掛けると、待ってましたと言わんばかりに頷いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴の空いた天井から覗く夕焼けを、ぽけーっと眺める。

強制的露天風呂状態だけど、これが案外良い感じの開放感を醸し出してて素敵。

 

天気は晴れだし、幸いと言うべきか微妙だけど謎の現象のお陰で何処にも死体はないし、

気分が良い。

 

 

 

脚を伸ばしてくつろいでると、隣で体育座りしてるヴォルが。

 

 

「サクラ…」

 

 

「どした〜」

 

 

「風呂って、良いものだな…」

 

 

「そだねえ…良いよねえ…」

 

 

チラッと横目で見ると、ヴォルは目瞑って、頭をゆっくり左右に揺らしていた。

半分夢見心地なのかも。

 

 

「………少し、俺の話をしても良いか」

 

 

「いいよ」

 

 

 

ん?なんだろ?と思う間もなく即答した自分に意外だった。

 

 

 

ヴォルもびっくりしたみたいで、驚いた様にこっちを見る。

 

 

「俺なんかの話なのに?」

 

 

「え。そっちから言い出したんじゃんよ〜」

 

 

「…そ、それは…うん…」

 

 

 

おっと。

 

我に帰ったのかモジモジし始めた。

 

 

うーん、こういう時は。

 

 

 

「まあ、無理強いはしないよ。

 言いたい時に言うのが、きっと一番良いと思うから」

 

 

 

ふっふっふ。押してダメなら引いてみな作戦っ!

 

さあ!効果の程は!

 

 

 

「い、言いたい。

 …今、言わせてほしい」

 

 

 

大成功ー!

 

 

 

「よーし、どんと来いっ!」

 

 

俺が軽く自分の胸の辺りを叩くと、ヴォルは照れ臭そうに、有難う。と微笑んだ。

 

 

 

…正直グッときました。

 

素直って最高ですわ。

そうじゃない頃を知ってた分、尚更可愛く感じる。

 

これがギャップ萌えってやつかね。

 

 

 

煩悩にまみれた気持ち悪い俺に気付かず、彼は、ぽそぽそと言葉を紡ぎ始める。

 

 

「俺、今までシャワーばかりで…誰かと風呂に入った事もなくて…

 だからこの時間が、とても新鮮で」

 

 

うんうん。

 

 

「一人になるから、風呂なんて早く出たくて仕方がなかった筈なのに…

 今は、いくらでも居られそうな気がする」

 

うんう……うん???

 

それは一体どういう意味ですかねどうも何もそのままの意味だよねいや待てそのままでもやばいっていうかそのままの方がやばくない??

 

 

 

「………それと、気になってる事があるんだけど」

 

 

「どした」

 

 

「この喋り方、おかしくない…か、な…。

 と、友達に堅い口調は良くないと思って、自分なりに頑張ってみてはいるんだけど…

 気持ち悪かったらやめ「ないで大丈夫だよそのまま続けてどうぞ」

 よ、良かった…!」

 

 

そういう事だったんかーーーはぁーーー無理好きーーーーー☆と思いつつ話してる最中に割り込んじゃったやっべちょっと言い訳しないと完全に俺ただの気持ち悪い人だわこれ。

 

 

「だってほら、今は恋人のフリしてる訳だし!

 その方が自然だと思うの!」

 

「そ、そっか!そそそそうだよな…!こっ、恋人…だもんな…

 

 

照れてるよ~~~可愛いよ~~~誰か助けてヴォルが可愛くて死んじゃうっへっへ~~~!!

 

 

「…恋人がどういうものなのか、理屈は分かったけど…やっぱりまだ、難しくて…

 …でもリヴとイリーナが喜んでくれてるみたいだし、恋人らしく見える様に、頑張る。

 わざわざ、付き合ってくれて有難うな」

 

「気にしないで。

 っていうかそもそもの原因作ったの俺だし…何と言うか、ごめん…」

 

 

そう、俺がヴォルを夜の屋上に連れ出したのが悪い。

 

こんな事になるなんて思ってなかったとはいえ。

 

 

 

 

「あ、そんな…謝らなくても全然良いよ。

 結果的に、サクラと過ごせる時間が増えて…嬉しいから」

 

 

無垢ーーーーーー!!!

 

 

「…サクラと会えて良かった。

 残された時間は少ないけど…これからも、仲良くしてほしい」

 

 

「此方こそですよ全くもう…」

 

 

 

好き………え……好き………。

 

 

……………。

 

 

俺、一つ重大な事に気付いたわ。

 

 

 

「…と、とりあえず、のぼせたら大変だし上がろう」

 

 

「確かに、大分長い間入ってたもんな。そうしようか」

 

 

 

ぐぬぬぬ…湯のせいで熱いのか自分が発熱してるからなのか…多分後者の影響が強い…

 

 

…えっと、気付いた事っていうのは。

 

 

 

「サクラ。約束は覚えてる?」

 

 

「そりゃ勿論覚えてるよ。ちゃんと話すから、安心して」

 

 

「うん!」

 

 

嬉しそうに笑ったヴォルを見た俺の心臓が答え言ってる様なものだけど。

 

 

 

氷室サクラさんじゅうろくさい。

 

どうやら、本気で惚れてしまったらしい。