四階に足を運んだ後、階段を基準に役割分担する。
「俺は左側を探すから…右側頼んでいいかな」
そしたらヴォルクは頷いて、訊ねてきた。
「探し終えたらどうする?」
時間が分かれば◯時になったら此処に集合!とか出来るけど、時計持ってないからなあ。
「とりあえず、終わり次第階段に戻るって感じで」
「分かった」
「うぬ。検討を祈るっ」
「サクラもな。また、後で」
てくてくと遠ざかっていく背中を眺めつつ、俺は内心ほっと一息吐いた。
昨日の夜以降、ヴォルクがおかしいからね。
簡単に言うと、なんか…か、かわ…んっんーなんでもなーい。なんでも、なーい。
さあさあ、本探し始めましょ。
本棚と本棚の間を歩いて創造の本を探す最中、俺はふと、階段でのやり取りを思い出した。
「………………はぁあ"」
溜め込んでたものを吐き出す様に溜息を一つ。
あの時の俺の格好悪さと言ったら…いやー…ないわ…。
でもなあ…面と向かって好きって言った事も言われた事も、
今までの人生の中で無かったしなあ…。
いや、母さんから言われた事はあるけども。
…という事からお察しだけど、彼女いない歴=年齢なんですよ。
恋人が何するのか知らんのですよ。
付き合うって事の意味はそりゃ知ってるけど、具体的に何するかまでは分からん。
………………………。
…あれっ。
そういえば、ヴォルクと二人で居る時は今まで通りで良いと思うけど…
皆の前でもそうする訳にはいかんのでは…?
あー恋人だなーって皆に思われる様な何かをする必要があるのでは…?
いや、間違いなくそうしないとバレちゃうよね。
ど、どうすれば良いんだろ…んんー………
……っと。気付いたら一周してたな。
別段白い本は見なかったし、こっちはハズレか。
階段に向かうと、ヴォルクが段差に腰掛けていた。
座ってる彼の手には何も無い。どうやら、本は見つからなかったらしい。
…なんか丁度良いや。相談しよ。
「ねえねえヴォルクー。俺思ったんだけどさー」
そんな事を言いながら駆け寄ると、視線をこっちにくれた。
…ッん"!?
…え、何…どきっとした…え…今更だし分かってはいたけどそれでもなんか…改めて感じるけど…ヴォルクって…美人…え…しっかりしてサクラさん…。
「どうしたんだ?何だか楽しそうだが」
「えっそうかな?俺楽しそうだった?あは、あはは!あははのはー!」
やばいテンションがおかしい。
完全に頭沸いてる人間だこれ。
…でも仕方ないよ。
出会いがあんなだったからなのか今まで軽いノリで話せてたけど、よくよく考えなくてもヴォルクみたいなめっちゃ美人な年上の同性と友達になった事なんて無かったし、ましてや恋人のフリなんてした事ない。
だから変に意識してしまっても致し方無いのじゃ…………た、多分。
わたわたしてる俺を見て、ヴォルクはふふっと笑う。
「やっぱり、サクラと居ると楽しい」
あーもーーなーんでこういう事さらっと言っちゃうかなー!!!
今俺心の中でブリッジしてるよーー!!?
「そ、それは何よりなのだわ」
「ああ。…ところで、何か言いたそうだったが」
そういえばそうだった。
すっかり忘れそうになってた。
「あのさ。かくかくしかじかで皆の前では恋人らしい事するべきなんじゃないかって気がしてな。
具体的に何すれば良いんだろうと思いまして」
「聞く相手を間違えているとしか言えないのだが…」
「そんな事言わずに…女性陣に聞いたらその時点で怪しさ満天になるじゃないの…」
「それは…まあ、そうだが…」
と言いつつも思考放棄せずにちゃんと考えてくれてるらしく、うんうん唸ってる。
「あ」
「お?なんか思い付いた?」
ヴォルクはこくこくと頷いて。
「友達同士でしないような事をするのはどうだろう」
!
「ははぁ〜…成る程」
恋人がやりそうな事を考えるんじゃなくて、友達が普通やらないであろう事を考える訳か。
要は、友達にやらない様な事こそ恋人にやる事だと。
流石天才博士だぜ。着眼点が凡人の俺と違う。
「男友達でやらない事…」
尚且つお互いに精神的ダメージが出ない穏便な事…
…あっ!
「手繋ぐ、とか」
それくらいならいける気がする。
お互いグローブ付けてるし、直に肌が触れる訳でもない。
それから…
「友達間でもあるけど、あだ名も良さげだな。リヴみたいなさ」
恋人ってなんとなくそんなイメージがある。
呼び方変えるってのも、形から入る簡単な例って感じでありかもしれない。
「どうかな?」
訊ねると、ヴォルクは頷いた。
「良いと思う…ただ、あだ名の付け方が分からないから、任せても良いだろうか」
「ん、いいよー」
じゃあリヴって愛称はイリーナが考えたのかな。
それとも本人の希望?
まあそれは置いといて…ヴォルクのあだ名を考えねば。
基本的に呼びやすくするのが前提な気がするし、彼の場合は短くするのが良いのかしら。
「…ヴォル、とか」
「ヴォル…」
「い、嫌だった?」
彼は首を横に振ってから、膝を抱き寄せて照れ臭そうに口元を隠した。
「全然嫌じゃない。むしろ、その……凄く嬉しい」
ねえ可愛いんだけど???
「そ、そ、それは良かった!」
「うん。あ、サクラの事はなんて呼べばいい?」
うんって何。その笑顔何。
え?
え?
可愛過ぎて意味分かんないんじゃが??じゃが???
っとと…危ない危ない。
えーっと…俺のあだ名かあ…。
苗字も名前も三文字だし、誰かにあだ名付けられた事無いんだよなあ…。
「俺はー……あー……今まで通り、サクラで良いよ」
お、思いつかなかったです。てへ。
「そっか……分かった…」
何故拗ねた様な顔してらっしゃるのこの子。
もしやあだ名で呼べないのがつまんないとかそういう?
やだ…かわi………
…こほん。
あぶねえあぶねえ。煩悩は空の彼方へぶん投げてバイバイしまして…っと。
決めるべき事は決め終わったし、皆と合流しないとね。
「早速だけど、手繋いで皆の所行ってみますか」
俺は、こくこく頷いたヴォルク…じゃなくてヴォル…に手を差し出す。
すると階段から立ち上がった彼は、おずおずと握り返してくれた。
互いにグローブ越しなのに、何故か温かい気がした。
「…サクラ」
「ん?」
「き、緊張する」
「え」
「大勢の前で発表する時よりも…し、心臓が痛いというか…どうしてだろう」
「どっどどどどうしてだろうね…?」
「病気かな」
「お、俺医者じゃないから分かんない…」
「うーん…」
心底不思議そうに首を傾げている彼の頬は、赤い。
多分、俺もまっかっか。
「と、とりま行こう。ヴォル」
「あ」
「どした?」
「えっと…ヴォルと呼ばれた瞬間、心臓が跳ねた様な気がしたんだ。
色々な事を学んできたつもりだが、まだ知らない事はあるものなんだなと思って。
…びっくりした」
「きっと慣れてないからじゃないかな!」
「そうなのかな…試しに、もう一度呼んで貰えるか」
研究者魂に火付いてない!?!?
もー!!駄目駄目!!
「今は実験してる場合じゃないから!早く行きますよ!」
強引に手を引いて階段を降りようと試みる。
残念そうにしつつも、ヴォルは抵抗しなかった。
うう…全く気が狂うよう…
だってこれじゃあまるで、本当の………