十五片目:Let's talk


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から上がって着替えを済ませて、暖簾を潜る。

 

その先で、リヴとイリーナがベンチに座って居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!二人共、お風呂どうだったー?」

 

 

こっちに気付いたらしいリヴがにこにこ明るい調子で声を掛けてきたので、

俺はつられて笑顔になりつつ返す。

 

 

「いやぁ良かったよ〜。そういや、ヴォルが風呂を鍋だと勘違いしてスパg「な、な、何言ってるんだ馬鹿ーーーー!!!!」もごごもごーーーーー!!?!??!!?」

 

 

 

ぐええ〜手で口塞がれてもうた〜!

 

 

 

「い、今のはサクラの冗談だ…断じて…違う…

 お、俺がそんな間抜けなミスを犯す筈がないからな…!」

 

 

苦し紛れな言い訳を放ったヴォルに、

リヴと一緒に温かい眼差しを送っていたイリーナが優しい声色で。

 

 

 

「ふふ、分かってますよ。はかせは、スパゲティをお風呂で茹でようなんて考えないですもんね」

 

 

「う"く"っ!?」

 

 

 

みなまで言ってないのにバレとるやないかーい!!

 

 

 

ヴォルの手から解放されつつ内心ツッコむと、

リヴが足をぶらぶらさせながら、口を尖らせて言った。

 

 

「あーあ。リヴも、温泉入ってみたいなぁ〜」

 

 

するとすかさず博士の一言が飛ぶ。

 

 

「錆びるから駄目だ」

 

 

「ちょっとなら多分大丈夫よ!」

 

 

「…誰がお前を直すんだっけ?」

 

 

「勿論はかせ♡」

 

 

「正解」

 

 

「きゃ~~~っ♡」

 

 

頭に軽い手刀を入れられたリヴが、楽しそうに笑う。

 

 

仲良いなあ。微笑ましいなあ。

 

 

 

…っと、そういえば。

 

 

 

「今更だけど、此処で何してたんだ?」

 

 

首を傾げつつ訊ねたら、

 

 

「はかせとサクラさんを待っていたのです。

 実は、皆さんの入浴中にリヴと此処を探索してみたのですが、宿泊部屋を見つけまして」

 

「使えそうな部屋があったから、掃除しておいたのよ!」

 

 

えっへんと胸を張ったリヴが続ける。

 

 

「でね、はかせとサクラの部屋はね……なんと!ベッドが一つだけでーす!」

 

 

 

ゑ、有能杉内??

 

 

 

双子様にすっと握手を求めると、分かってるわよ…的な眼差しで握り返してくれた。

 

なんて最強な味方なんだ…神よ…。

 

 

 

「そ、それはつまり、同じベッドで俺とサクラが寝るって事なのか…?!」

 

 

「あったりまえじゃなーいっ!」

 

 

「恋人ですもの、当然なのですっ!」

 

 

 

きゃーっ!とリヴとイリーナが黄色い声を上げる。

 

なんて可愛いんでしょ。この一家全員可愛い。

 

 

 

「あ、え、いや、でも、俺と寝たらサクラが窮屈なんじゃ…」

 

 

「んー、確かにはかせは身長高いもんねー。

 でも太ってはないんだし、くっついて寝れば問題ないわ!」

 

 

「くくくくくくっついて!?!??!」

 

 

「当然ただくっつくんじゃなくて、ギューってして寝るのよ!」

 

 

「!??!?!?!」

 

 

 

あかん。ヴォルがオーバーヒートしてる。

 

涙目で真っ赤になってる。

 

 

と、ニヤニヤしているリヴの傍らで、イリーナがぽつりと言った。

 

 

 

「慌てるはかせ…お可愛らしいのです…」

 

 

「超わかる」

 

 

 

思わず同意した俺とイリーナの視線が合い。

 

 

次の瞬間、声が重なる。

 

 

 

「「ふふ…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんやで部屋に辿り着き、リヴとイリーナにおやすみと言って別れる。

 

 

 

「ほ、ほんとに一個しかない…」

 

 

 

ちょっと大きめのベッドに視線をやったヴォルが、若干震えた声でそう呟く。

 

 

俺は別に良いんだけど、やっぱり男と寝るのはハードル高いんだろうなぁ。

 

 

 

「無理だったら、俺床で寝るよ?二人だけの時は、恋人のフリする必要もないしさ」

 

 

 

軽いノリで提案したら、ヴォルはブンブンと首を横に振った。

 

…サラサラと動く髪が綺麗で、つい見惚れてしまう。

 

 

 

「そ、そんなの駄目に決まってるだろ!そっちの方が無理!一緒に寝る!」

 

 

 

やだムキになっちゃって…やさC…。

 

 

 

「へへ、ありがと」

 

 

「お、お礼言われる様な事は言ってない。一人だけでベッド使うくらいなら、俺も床でいい」

 

 

「ベッドあるのにそれ放置して寝るっていう面白い事になるやん」

 

 

「あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くすくすと暫く笑い合った後、俺はベッドに腰掛けた。

 

 

昔話をする為だ。

 

 

 

…んーっと、何処まで話したっけ。

 

 

確か、森が火事になった所までだった気がする。

 

 

 

 

何となく気配みたいなもので察したのか、ヴォルはすすっと俺の隣に座ってきた。

 

ちらっと彼の顔を見ると、まるで絵本の読み聞かせをして貰う時の子供みたいな、

キラキラした瞳をしていた。

 

 

自分の過去に興味を抱かれるっていうのは、中々にこそばゆい。

 

相手が好きなら尚更だと思う。

 

 

そんな訳で全然嫌ではなくて…嬉しかったり。

 

だって、気になって貰えてるって事だもん。

 

 

 

 

「じゃあ、話すぞ」

 

 

 

ヴォルが頷くのを確認し、俺は一つ息を吸った。